おもしろい!
★★★★★
言わずと知れた芥川賞受賞作『アサッテの人』は最高だった。近年稀に見る「小説について考える小説」だった。小説は読む(read)ものでそれについて考えたくなんかないという人にはあまり向かない。出来合いのストーリーにとりあえず感動したい人は、そういうものは他にたくさんあるので、そちら方面をどうぞ。別に小説じゃなくてもいい。この第2作『りすん』(listen)も当然、諏訪哲史氏の「小説に淫した小説」である。一見悪乗りにしか見えないという視野狭窄にも結構小説家は寛大である。どうぞお好きなように。それにしても、小説に限らず、なんでも一義的に還元しなければ気がすまない原理主義的な態度はどうなの? こんなの小説じゃない、とかね。そんな読者の主観の惰性をあぶりだす仕掛けは当然あるんだけれど、別に「野心的な試み」とかそういう肩の凝る「まじめな文学」論議に嵌まってしまうと諏訪氏の思う壺ですね。19世紀末フランス象徴主義のちょっと前の小ロマン派、シャルル・クロスとか、あの辺りの皮肉なメンタリティを継承する希少な作家ですよ、諏訪哲史氏は。読むことのヴァージョン・アップ。Listen(聞け)というタイトルに誤魔化されないように。勿論、トリックですから。