帝銀事件の平沢貞通は冤罪ではないかという疑問を世の中に呈した小説。
★★★★☆
昭和23年に実際に起こった帝銀事件をテーマに、平沢死刑囚は冤罪ではないかという疑問を呈した作品。当然ながら膨大な資料の読み込みと緻密な推察が繰り広げられている。
第一部は事件の概要と逮捕まで、第二部は主に捜査記録、検事調書、裁判記録等の振り返り、第三部は著者による推理・推察である。仁科俊太郎という新聞記者を登場させているが、推理・推察は清張自身によるものと受け取れる。
冒頭で、元警視庁幹部がうっかり仁科に「アンダースンという奴は悪い奴でした。・・・帝銀事件のときでも、警視庁にやって来て・・・」と言ってしまう件がある。これが、清張の疑問の出発点なのであろう。GHQによる日本統制が敷かれていた時代、あらゆることが闇に葬られた可能性がある。
この小説が伝えたいことの一つに、日本の検察・マスコミの大衆迎合主義が挙げられるのではないだろうか。平成となって20年が経過する今においても、本質的に何ら変わっていないことを我々は強く自覚すべきであろう。