広い宇宙のたくさんの植民惑星を舞台にした魅力ある物語。
★★★★★
植民惑星の統治にあたる司政官の話。発足当初からその終焉までを描く短編を1冊にまとめた本。司政官とそれを補佐する官僚ロボット(のちにだんだんと役割に応じてその数が増えていく)。植民惑星とは言っても、これから植民できるかどうかを調査中であり、原住者がいる星ばかり。その原住者との交流には、かつて地球でもあったヨーロッパの探検隊と先住民の遭遇時のように、お互い理解するのに大変な困難を伴う状況が多い。その状況では、ロボットの言語学習能力が最大限の力を発揮する。
第一話「長い暁」は、まだ司政官制度が発足したばかりで、連邦軍の軍人たちの方が力を持っていた時代の話。題名も「長い暁」だが物語も長くて読むのを挫折しそうになった。第二話からは比較的短編になって、司政官がメインになって統治する時代を描いている。後半になると司政官になるための実習制度が始まり、候補生が実際にそれぞれの星に派遣される。最終話では植民惑星の人々が独立を望み、司政官は連邦と植民者との板挟みになっていく。
どの物語もそれぞれの星の原住者(先住民がすでに滅んでいてロボットのみ居住の場合も)の個性的な描写が面白かった(第三話「炎と花びら」の原住者はなんと意思疎通できる植物!!これは魅力的な設定だった)。そして、それぞれの司政官が現地の制度について学び、自分たちの世界と比較して思索を深めていくところや、司政官の役割とは何なのか、と時に無力感に苛まれるところに惹かれた。
創元社に感謝、70年代日本SFの代表作再刊
★★★★☆
近年、長谷氏がSFマガジンに書いていたように、SFとは読み手が人間である事を客観視する小説だと私も考える。
眉村 卓の司政官シリーズでは人間の作るシステムの設立と衰退について、SFというスタイルを採りながら淡々と描写している。
それぞれの短編で、読者は司政官の一人として、その時代の司政制度の要請に基づき、無力感を覚えながら、あるいは高揚感を覚えながら未知の世界を旅する事になる。
作品の世界としては、個人的には、照り返しの丘、炎と花びら、遥かなる真昼、そして遺跡の風あたりが楽しめた。
作品全体に漂うある種の虚無感が、一つ一つの短編そしてこの短編集全体に独特の静謐なトーンを与えている。静かな時を作品と共にすごしたいと考えている読者にはオススメである。
未知な世界に、訪れるという設定自体がやや古めかしい感じを作品に与えているが、
主人公の意識に流れが丁寧に描出されていること、またそれぞれの世界の社会学、政治、経済学的な設定が丁寧に形成されている結果、一つ一つの作品にrealityを与えるのに成功している事などが、この作品を経年による劣化から守っている。
現実的にココまで、SF作品が読まれない中で、絶版になっていた70年代SF作品を出版してくれた創元社には心から感謝したい。
また、読者にはこれだけの作品があっさりと絶版している出版業界の実情に、この作品を通じてきずいてもらいたい。
今回、一巻に全作品を収録する形で出版されているが、個人的には、それは成功であったと考えている。
なんといっても作品は人間の作るシステムの脆弱性、経年による劣化を普遍化し、客観視しようとしているの作品なので、その設立と衰退について俯瞰せずに作品集を閉じてしまっては、作者の意図が届けられないものになってしまうだろうからである。
SFファンの一人として、70年代日本SFの白眉、是非多くの人に手にとってもらいたいと思う。
文庫本で1500円は厳しい価格ですが価値はあります
★★★★☆
眉村卓のファンで無ければ文庫本に1500円を出す人は少ないと思います。 上下巻で2冊に分けた方が明らかに売れると思います。 実態は1冊で1500円はお買い得の中身です。 眉村 卓の司政官シリーズが年代別、即ち司政官制度が出来た時代の司政官パイオニア時代から制度が根付いた成熟期、制度疲労を起こした次の制度、時代を予想させる終末期まで一気に読ませます。 本文だけで700ページ弱のボリュームは単価として高くないだけでなく中身もそれぞれの時代で完結した物語になった魅力的な本です。 植民地惑星を監督する上でそのパイオニア時代から成熟期まで頼りになるロボット官僚のSQ1は優秀な副官兼秘書であったが司政官制度が実態に合わなくなるにつれて官僚性の持つ融通性の無さが自らの崩壊を招くと言うのは現代にも当てはまる事でしょう。 日本の官僚もそれに気がつかなければ国民からパージされかねない状況が見えていないのでしょうね。
出てくれてよかった。
★★★★★
司政官シリーズが好きな私にとっては待望の一冊!
眉村卓の最高潮のシリーズです。
今までの短編を年代順に。司政官世界の解説まで付いています。
どれも珠玉の短編です。やや重苦しく、時代・世界への
無力感もありますが、読みごたえは抜群です。司政官制度の設立と衰退
の流れもさることながら、ロボットから登場人物にいたるまで、
見事な個性と魅力を持っていて、一編一編に深みを出しています。
世界設定重視のSFも最近多いですが、
登場人物がどのような形かで魅力的であることが、
物語には重要なことではないでしょうか。
世界設定が凝っているので、SFをあまり読まない方には
読みにくいかもしれませんが、
ぜひ読んでほしい一作です。
シリーズ長編
「消滅の後輪」「引き潮のとき」も再販を…期待しています(^^)