タイトルとなっている「人間科学」とは、「『ヒトとはなにか』を科学の視点から考えようとするもの」であり、著者はこれに対し、「それなら、科学とはそもそもなにを扱うのか」というところから議論を始めている。現代科学の問題点を鋭く指摘し、科学と人間を「情報」という視点で結びつけようとする試みは、斬新で説得力がある。
著者は、本書の中で「情報と実体」という概念を用いてさまざまな事象を説明しようとしている。ここでいう「情報」とは固定化された事象であり、「実体」とは常に変化する、固定化されていない事象のことである。著者はこれらの概念をもとに、人間の思想や社会、果ては都市にまで言及する。著者によると、「巨大化したヒトの脳は、徹底的に意識的な世界を生み出した」のであり、現在もなお、あらゆるものを意識的に統御しようとしている。情報化社会とはあらゆるものを固定化しようとする動きであり、そこには実体をありのままに受け入れるという姿勢が欠如する恐れがある。
著者自身「あとがき」で述べているように、本書は進歩を続ける著者の思考の過程であり、読んでも体系的な知は得られない。だが、ここで述べられた人間観は、これまでにない斬新なものであり、「養老ヒト学のひとつの到達点を示す」ものである。(土井英司)
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