会計士の苦悩
★★★★★
キャッツを巡る粉飾決算の当事者である会計士による検察との闘いである。
この事件は、詐欺に遭ったことから粉飾決算と疑われるに至り、
その過程で会計士のするべき役割についても考えさせてくれる。
会計士は強制捜査権など持たず、あくまでも会社との信頼関係を
前提に監査を行なう。
経営者確認書などによっても経営者から提出された財務諸表に
虚偽の記載がなされていないことを確認し、また監査によって
合理的な保証を確認する。
この本に赤裸々に書かれていることが真実であれば、
それ以上のことを監査人に求めるのは現代の監査制度から
無理があるだろう。
その中で特捜扱いになった事件では、99.9%有罪となる事実は
あまりにも当事者にとってやり切れないと思う。
もっと本当の真実を見たい。
国民の司法参加・監視による司法の質の向上と真の信頼関係の構築を願う。
★★★★★
筆者の主張される,国民による司法に対する監視が必要であることは,そのとおりと思われる。
「戦後六二年,日本の司法は国民から切ないほどの信頼を得ているが,その実態はベールに隠されていて,国民の目に触れることはなかった。しかし,それを体験したものにとってみると,日本の司法は激しく制度疲労を起こしていると言わざるをえない・・・開示されない絶対権力は必ず腐敗する。・・・捜査当局のずさんかつ非道な捜査,及び,一般市民の常識から著しくかけ離れた裁判の実態は,それが社会的に開示されなかったからこそ可能となっているのであり,その遠因は,司法に対する監視を怠り適切な開示を求めてこなかった,・・・すべての国民の側の怠慢にもある。」
「私も誤解していたのであるが,弁護士とは被告人の弁護をする人のことを言うのではない。弁護士は,被告人の行う無罪証明を公判の場で司法用語に翻訳する通訳人以上の機能をもたない。刑事事件における弁護士は,公判手続促進のための被告人側代理人にすぎないのである。」
国民の司法参加(差し当たって裁判員裁判制度)の存在意義は,国民が司法の現実に触れ,司法に対する理解を深めること,国民の監視によって司法の質を向上させ,真の信頼関係を構築することにあると思う。
経営者との距離感
★★★☆☆
楽しく読みました。
経営者と監査人との距離感が近すぎると思いました。
監査人が監査対象の経営に関与しているような印象を持ってしまいました。
経済事件の真相
★★★★★
ひきこまれるように読みました。「いったん日本の司法で疑惑をかけられてしまうと、抗弁するほどその疑惑は火に油を注ぐように強まってしまう。私は虚偽記載がないことを企業会計原則によって説明するのであるが、司法はそれを理解しようとしない。会計原則の基礎知識がないので理解力に乏しい上に、もとより会計人と法律家ではその使用言語が違うので、言葉が通じないのである」(はしがきより)このような司法に正義の判断を任せなければならない国民は不幸だと思いました。
検察のたてたシナリオによって調書が作成され、それに署名し、それに沿った証言をしないと不利な扱いを受けるとなれば、たいていの場合は不服ながらも検事の言うとおりにしてしまうでしょう。この本には、著者に悪いと思いながらも事実と異なる証言をしてしまう経営者たちの人間的な弱さや、業績が好調な中でしのびよる破滅の端緒や不可解な取引なども描かれ、人間観察的にもたいへん興味深い本でした。
公認会計士や法律家をめざす人、そして企業家になりたいと思う人にも読んでもらいたいと思う本です。
司法制度の根源的な問題を正す魂の一冊
★★★★☆
2004年3月、あずさ監査法人の公認会計士が、東証1部上場企業の害虫駆除会社キャッツの株価操作に絡む粉飾決算事件で逮捕された。被告は、逮捕後190日間の勾留を経て、一審・控訴審において有罪判決を受け、現在は最高裁に上告中である。
著者は、その逮捕された公認会計士。一貫して「粉飾はなかった」と無罪の立場を貫きながら、特捜検察との5年超に渡る戦いの記録を、被告の立場から詳細に綴る。
ただの粉飾事件告白本ではない。本書の本質はもっと深淵であり、経済事件における現行司法制度の驚くべき事実を暴露する衝撃の作品である。
特に、国家権力の中枢機関である検察庁特捜部の横暴さに驚きの念を隠せない。被告人を有罪にするため、検察側の作成したシナリオに沿って関係者の証言を捏造するという過程があまりにも生々しく描かれているからである。
加え、裁判所の怠慢ぶり、弁護士の無力さ、そして監査法人の無責任さ。司法の世界の闇だけでなく、それらを取り巻く不合理な世界の一端を垣間見ることのできる書籍である。司法関係者、会計関係者だけでなく、一人でも多くの人が手に取って経済犯罪の現実について知って欲しい。