四つの小品作品119は★五つの永遠の名盤
★★★★☆
【録音】1960年代末のCBSらしく(セルの好みか?)ホールトーンを余り入れぬ近接音主体の生々しい音像。奥行きはある。ゼルキンの骨太で雄渾なピアノの音を楽しめるという意味では好録音と言えるかも。
【セルの解釈】男の翳りを漂わせるメランコリックなロマン主義とは無縁。古典的交響曲作品の延長上の傑作として捉えている。アンサンブルとしては完璧無比で奥行きもある。気品と強さを併せ持っているのが単なるザッハリヒカイトと無縁なるゆえ。素晴らしいがブラームスの音楽から重要な要素が抜け落ちていないかどうか。
【ゼルキンの解釈】肉太・雄渾で生々しい幻想性も併せ持つのがルドルフ・ゼルキンたるがゆえ(息子ははるかに繊細でもろい部分を持つ)。淡々と弾く(それでいてスケールの大きな古雅なロマン主義が漂う)バックハウスとも違い、輝かしく聳え立つアイガーの北壁のようなポリーニのピアニズムとも違う。生真面目なのに劇的であり、客観的評判とは裏腹に主情的表現主義の発露も随所に見られる。この曲のファースト・チョイスか?と聞かれるとためらわれるが(ファーストチョイスはやはりカール・ベーム指揮VPOと渾然一体となったバックハウス盤、ハイティンク指揮VPOと共に理想的な黄金均衡を生み出したアシュケナージ盤であろう)、アシュケナージに「私に足りないのはゼルキンだ」と言わしめるような素晴らしい魅力が詰まっている。ブラームスに興味のある人なら是非聴いてみる事をお薦めする。
【ブラームス最後の小品集 作品119は?】元々「ヘンデルの主題による変奏曲」と一緒に1979年録音されたもの。「楽譜どおり」のルビンシュタインに比べて、楽譜にはない主情的強調表現等あるが、その素晴らしさは比類がない。無骨でぎこちないと思う向きもあろうが(そういう方はカッチェン盤がお薦め)、ゼルキンの魅力全開の「永遠の名演」だと思う。