「第九」のアポロン的な名演。絶対、お買い得です!
★★★★★
値段に相応してチープなジャケット・カバーのイラストですが、中身は凄いです。セルのベートーヴェンてことで、そこそこ期待して聴き始めたのですが、正直、これほどの名演奏だとは思っていませんでした。
第三楽章の“歓喜の前のアダージョ”といった趣がある音楽。ここがまず素晴らしかった! 室内楽的とでもいうか、彫琢された音楽の端正な美しさ。絶品というしかなく、最後のほうではじんと胸がしびれて、目頭が熱くなりました。
続く終楽章、合唱付き音楽の盛り上がりも素晴らしい。音楽の殿堂に黄金の釘を打つような、めりはりの利いた、輝かしい演奏。ソプラノとアルトの女声ふたりが弱かったのが唯一の難点。そのほかは、美声を発揮して高らかに歌い上げてゆくリチャード・ルイスのテノール、ドナルド・ベルのバリトンに、ロバート・ショウ指揮の合唱陣(クリーヴランド管弦楽団合唱団)が、セルとクリーヴランド管弦楽団に引けを取らず、見事な“歓喜の歌声”を聴かせてくれて二重丸◎。わくわくさせられました。
こんなに感動的で凄い「第九」を聴いたのは、ここ数年では、フリッチャイ指揮ベルリン・フィルの演奏(1957年〜1958年にかけての録音。ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウのバリトンを筆頭に、独唱陣の顔触れも凄い名演)以来ですね。求めやすい廉価盤(何たって690円!)ってこともあり、「第九」の第二、第三のチョイスには格好のCDではないでしょうか。音質も五十年前のものとは思えないくらい良いもので、聴き苦しさは全く感じませんでした。
録音年月日の記載がラーナーノーツにありませんが、オリジナル発売が1963、1968年と記されているところから、次の日付だと思われます。「第九」が、1961年4月21〜22日。余白に収められた「フィデリオ序曲」が、1967年8月25日。