超一流ミュージシャン達の個性が曲に奥行きを持たせながらも、しなやかな喉ごしに。
★★★★★
河原町、高瀬川、嵐山、東山、桂川と出てくる1「Kyoto」は渚ゆう子「京都慕情」のカバーで作曲はザ・ベンチャーズ。原曲はもっとゆっくりでしみじみ歌謡曲なので、今作のスティ−ヴ・フェローンのドラムソロから始まるイントロや、跳ねるような構成、更に矢野節による詞の捉え方は大胆でしたね。宵闇の高瀬川の恋人たちも21世紀の景色です。
2の沖縄民謡のかわいさは京都の数え歌にも通じるようで流れはぴったり。インタープレイでミノ・シネルーのパーカッションと矢野のピアノが交差し不思議なリズムで“ジンジン”という響きが増幅します。
3はハウスシチューCMの有名なサビ以外の詞を聞いてみるとシンプルさの中に深みを感じました。また4の小学生が作ったてらいのない詞も美しく、少ない詞のイメージを音が広げてゆくように、矢野のジャズがピアノを走らせ雪の世界へ誘います。クリフ・アルモンドのドラムソロが入るあたりがむしろ幻想的で雪国出身の私には雪の重さをイメージさせました。
5の糸井氏の詞には“ほぼ日”で目にした「とりかへばや物語」についての考察を思い出させます。全曲のサウンドデザインを担うジェフ・ボーヴァが作るサウンドの色彩と呼吸が抜群でしたので、詞の世界が非常に魅力的に漂っています。6がデ・ビアスのダイヤモンドのCMだったとは。“OuiOui”と歌う音は何とも優しく、可愛いです。
7から技術屋達の拘り。先ずはカントリーのビッグネーム、ハンク・ウィリアムスの名曲カバー。パット・メセニーの静寂なアコースティック・ギターを中心に全てが洗われてゆく曲です。ここでは打ち込みが一切ありません。反対に8ではパットの変った名前のギターが天才的なフレーズで唸り、何度もリピートした曲でした。9は行間の中でイメージが膨らんでゆく夢想的音表情が好きです。ヒュー・マクラッケンのブルースハープが印象的でした。
今更打ち込みポップスはないだろう。
★★★★☆
槇原敬之のアレンジ・コーラス参加曲を含むシングルを収録。
しかし、結果としてあまり槇原である必要性はない。
コーラスと間奏のアレンジで無理矢理槇原が参加しているような感じである。
アレンジだけでなく、一緒に曲を作ればもうちょっと違った面白い楽曲ができるんじゃないかと思うのだが。
今まで他のミュージシャンと一緒にやった時は、その後も時々は一緒に作ったり、
アルバムにゲスト参加したりというのがあったが、槇原の場合はコレ1回きりなので、
矢野顕子本人はあまり満足していないのかも。
このコラボレート曲だけがこのアルバムの中では毛色が違ってもいるし。
そして、全体的な変化で言えば、
長期に渡ってプログラミングを担当しているJeff Bovaの台頭がすごい。
久しぶりに打ち込み度の高いアルバムとなっている。
これを良しとするかどうか、これまで生演奏中心で充実したアルバムを作っていただけに、
再び打ち込みが多くなっているのが、ファンとしては非常に判断し難い。
一応は無駄ナシの、音楽的に大充実した作品ではあるのだけれども。