さらに専門的な本を手にするもよし、このレベルで幅をひろげるもよし
★★★☆☆
「知りたいサイエンスシリーズ」というなかの1冊ですが、このシリーズ、一連のタイトルだけをみると、何だかマユツバ的な気がしてしまいます。本書にしても書名や装丁から、何だかちょっと「おかるい」感じで、眉に唾しながら手にしたのですが、内容はいたって真面目ですし、著者もれっきとしたベテランの専門家です。
読んでみると内容以前に、存在意義が少々半端でしょうか。最近増えた新書的なものだと思いますが、税別1580円という価格が手軽さとはうらはらと言えるでしょう。
注は比較的よく付いていると感じますが、では初心者向けかと言われると「?」。そこそこの予備知識を持ったかた向けかもしれません。余計事を省いた「読みやすさを優先して書かれた本」(p248あとがきと謝辞)で、或る種「スピード感」が心地よさを生んでいるように思えます。
ですから、こうしたところからも、もしかしたら、時間に余裕ができて自身の趣味を拡げだした「大人のための」本なのかもしれませんね。
「従来の江戸天文学史に関する本は、天文暦法や暦について主に書かれたものが多かったが、本書では私が過去に見聞した天文儀器や天体観測記録とそれにまつわるエピソードに重点を置いて書いてみた。」(p10プロローグ)という著者の弁ですが、前半分は暦がらみです。これはしかたないでしょう、はずせませんから。でも、暦のことでもそうですが、科学面での海外の知識・技術の消化・導入には素晴らしいものがありますね、江戸時代をかつてのように、外国からの情報をシャットアウトし、内にこもった停滞した時代と考える方はないでしょうが。本書の核心はこのあたりで、「この本は、江戸時代の天文学者や知識人が、西洋天文学を苦労しながら理解し、やがて受け入れていったいきさつを中心に、分かりやすく述べたものである。」(p10プロローグ)との著者の意図も空振りしてはいません。
ささいなキズがないわけではありませんが、なかなか惹きこまれるような面白さもあり、いい時間が過ごせた気分です。