記述の自在
★★★★★
ロボット研究の第一線の研究者が総合的に書いている。一般読者に
向けたまんべんなさの観点では非常によい。金属や樹脂の塊を作る
前に認知心理学等の学とも手を携えているのは同門の石黒浩氏と
変わらず、斯界における日本の研究の先進性を観ずる。
評者にとって出色と思えたのは映画「2001年宇宙の旅」に登場する
HALへの疑問の提示である(詳細はあえて秘す)。素人好事家が
大胆に要約すれば、筆者の問題意識を束ねた結果の疑問であり、
同時にこの点の記述から様々な点が敷衍される(←注意深い一般読者
にも可能と思う)。抽象と具体の往復運動を忠実かつ自在に
進めている・進められる点に、学の高度さを改めて観じとることが
出来るという好著。