私は、一般的な心理学を扱った普通の本を読んでいて、ようやく専門的な内容も読みたいと思って、トラウマやアドラー心理学、フロイトやユングなど、基本的なものから順をおって、この本にたどり着きました。もっとも、この後に読んだ「心理療法におけることばの使い方」という本の方が非常に強く印象に残ってしまったのですが。でも、この本も２度読みました。

私は、なになに派というものではなく、統合した心理学やカウンセリング、セラピーなど、ジャンルを問わずに勉強したいし、それによって人に合わせた対処を出来るように望んでいます。この本は、どちらかというとフロイトの色が感じられもしますが、非常にいろんな世界を私に教えてくれました。この本を読んだことで、今ようやく統合失調症の分!野にも足を踏み出す事が出来ました。私はそういう分野を突き詰めたいと思うのですが、知識も足りないし、いきなり専門分野に踏み込めるほど簡単ではありません。こういった、素人にも具体的に理解出来る本が見つかって、幸運でした。素人といっても、もともと心理学に興味はあり、深く探求したいと願っているから分かったのだと思います。ですから、自分の問題を解決したい方には不向きでしょうし、広くいろんな意味で人を知りたい、人間を知りたいと思う人には最適な一冊になると思います。ただ、星４つなのは、やはり最初にレビューを書いた方同様、難解な文章がある点です。訳がもう少し分かりやすい表現だったら、５つにしました。訳は難しい大変な作業で、誰にもベストな内容を送るのは難しいでしょうけれ!ども、自分で深く理解して分かりやすく内容をまとめる作業はとても素晴らしいと思います。

コフートの自己心理学を土台にフロイト、ロジャーズ、マートン・ギル、対象関係論などを統合して臨床的面接の指針を呈示しようとした本と言えるでしょう。とくにマートン・ギルの発想は現代の精神分析的精神療法の原則のなかに染みこんでいるにもかかわらず、これまでその解説書がなかったのですから、本書が訳出された意義は大きいと思います。理論の紹介だけでなく、実際の面接場面の事例挿話が随所に掲載されており、理論の理解を助けてくれます。ただ、少し残念なのは、訳文がこなれていない部分や多少の誤訳が見られることです。たとえば発生論的解釈とでも訳すべきところを遺伝的解釈と訳していることなどがそれです（精神分析に遺伝的解釈などというものはありません）。