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近代による超克〈下〉―戦間期日本の歴史・文化・共同体

価格: ¥3,885
カテゴリ: 単行本
ブランド: 岩波書店
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時代の思想の帰結 ★★★★★
日本戦間思想史の名著、後半戦。
下巻では、まず九鬼周造と和辻哲郎という二人の著名な日本哲学者の議論が再考される。著者の力点は、いずれの論者も、近代の産業社会がもたらした均質な生活/社会空間に対して、より古層にある日本に独自の価値観を再提示しそれを独創的に理論化していった、というところにある。江戸時代のオリジナルな美意識である「いき」にせよ国民がそこに埋め込まれた「風土」や人間であれば常に既にそのなかにある「間柄」であれ、外来の文化に強く規定された現代都市のライフスタイルとは決定的に異質の世界を哲学的に語りなおすことを、彼等はめざした。ヘーゲルやハイデッガーらの西洋近現代思想の構造を十分に理解しながらも、それをおおよそ前近代的な価値の肯定のために応用していったその時代の日本に特有の思考の跡がたどられる。
ついで、柳田國男と折口信夫の民俗学である。彼等の念頭にあった対抗すべき相手も、やはり都市の産業/消費社会であった。無限の差異に彩られた商品に取り囲まれ、けれど全体社会としてはひたすら抽象的な均質性が浸透していく現状に不満を感じた民俗学者たちは、昔からの農山漁村の生活実践や宗教的な風習を今なお保持するとされる「常民」の固有性を想起させようと試み、また、伝統的な文学や芸能にくり返し見出される「古代」の姿を同時代人に幻視させることを望んだ。それは産業化を推進する国家の意向や近代化された日本史学に対抗するかのような新しい学問では確かにあったが、しかし独自の方法で日本人の「過去」を現在に呼び出し単一の全体性を語る日本文化論として、近代国家の政策を下支えする役割を果たしてしまった。
本書のトリを務めるのは、三木清である。技術知(テクネー)と制作(ポイエシス)を主眼とする「構想力」の思想を構築した三木は、抽象的な哲学や現代社会論を批判し人々の具体的な行為と身体の観察にもとづく日常重視の人間論を提唱した。人間の実際生活を誠実に見据えるその論理は、人々のよりよい生活を希求する理の必然として「協同」ということにこだわったが、この論理は、やがて地方文化と中央文化の協力、そして東亜に広がる共栄関係の唱導という、すぐに支配関係へと転化しうる危険性をもつ世界共存の理論をもたらした。戦間期思想が到達した可能性と、それがその可能性ゆえに陥った問題性が、三木の思想には最も見事なかたちで現されているのだと著者は主張しているように思われた。
ある特定の時代がもたらしたある特殊かつ普遍的な思想の素晴らしさと、しばしば暴力的に作用するその限界について、これほど鮮やかに描き出した作品にはめったにお目にかかれない。ハルートゥニアンの単著の翻訳は本書が本邦初であるが、その他の作品(近世国学の思想史を主題としたものなど)も日本語で読んでみたいと、強く切望した次第である。