青春のフラムと交差したジャーナリスト
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本書で、著者の北川フラムが、その青春時代に影響を受けたとしている松沢弘、湘南社研(神奈川県立湘南高校の社会科学研究会)のその後が記されている著作が評判になっている。湘南社研から駿台予備校の社研(フラムもそのメンバーだった)を経て、早稲田大学の学生運動に身を投じた松沢が書いた「フジサンケイ帝国の内乱−企業ジャーナリズム現場からの蜂起」(社会評論社)がそれだ。「反動の牙城」とされる、あのフジサンケイグループで抵抗運動を組織し、懲戒解雇された松沢(元論説委員)が、自らの反乱の軌跡や、暴力に支配されたフジテレビの株主総会の内実などを赤裸々に記している。それだけではなく、各テレビ局や、他の大新聞の実情を、その根幹にまで踏み込んで「企業ジャーナリズム」としての正体を明らかにし、マスコミの歪んだ構造を抉りだしている。北川フラムの青春に交差し、今なお闘いの現場に踏みとどまるジャーナリストの現在を知ることで、フラムの40年の意味もより深く理解できるだろう。
美術の希望のみならず、世界の希望が、ここに詰まっている
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この窮屈な時代の閉塞感を打ち破るにはどうしたらいいのだろうか。「希望」という言葉など、もう死語ではないかと思っていたが、アートプロデューサーである著者の見る美術からは、「希望」というほかない思想が沸き上がってくる。かつて、美術が人間の生活を豊かにしようと志向した時代があり、それが希望でもあった。そして美術はいま、「わずかな力を振り絞って、人間と自然とをつなぎ、また隔てられた人と人をつなごうとしているのではないか」と、著者は投げかける。「美術を思うことで、人間社会や環境がもつ貧しさや狭さを、いつでも超えていることができた」といった、著者の体から沸き上がってきたひとつひとつの言葉には、思わず涙が出る。巻末には、膨大な年表もついていて、戦後文化史を学ぶにも有効な資料だ。