昔懐かしい痛快な冗談冒険アクションを大いにお楽しみ下さいね。
★★★★☆
アメリカ生まれで第一次大戦終戦後にパリに移り住み著作を執筆し始めたユーモア作家ポールの出世作で、ご機嫌な娯楽冒険探偵小説シリーズの記念すべき第一作です。物語はパリを訪問中のアメリカの大富豪ワイス氏の失踪により警察が動き出し、成行で犯罪容疑を掛けられながらも謎を追って奔走する素人探偵ホーマー・エヴァンズとその仲間たちの活躍を描きます。事件の背景には贋作絵画が関係している事が判明し、遂に謎のアメリカ人が不審な状況で死を遂げてしまいます。
本書の魅力を支えているのは、一癖も二癖もある面白いキャラクターたちです。普段は無気力なのにエンジンが掛かると人間がいっぺんに変わり、鋭い勘と推理で事件を解決に導くホーマー探偵、酔っ払いで荒くれ者のノルウェー系米国人画家のヤルマー・ジャンセンはパリ警視庁から何時の間にか‘ゴンゾ’という野卑な名で呼ばれ恐れられています。直情径行で正義感だが上司に何時クビにされるか脅えたり黒人女性を真剣に愛する好漢でもあるパリ警視庁のフレモン巡査部長、パリ警視庁の監察医で職人技の腕を持つヤサント・トゥドゥ、拳銃を持たせたら百発百中で的を外さない美人西部娘のミリアム・レナード嬢、他の面々です。事件は組織犯罪で真犯人の意外性はありませんが、素人達が少人数で乗り込みプロの悪党にも負けない活躍をする場面が痛快で小気味良く、爽快な読み心地をお約束します。彼らは大酒を飲んで陽気に酔っぱらいますが、肝心の時には素面でピシッと決めてくれますのでご安心下さいね。他に著者は作中に絵画の知識や文学作品から台詞を多数引用し、時折わざと間違えたりして存分に楽しんで書かれているのが窺えます。本書のタイトルの由来は、中盤までなかなか出て来ませんが何処か懐かしい幻想的な小道具です。貴方も事件に漂う禁断の香りと昔懐かしい痛快な冗談冒険アクション小説のブレンドを大いにお楽しみ下さいね。