奇妙奇天烈な世界にのめり込んで病みつきになる異才の超絶傑作集!
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SF・ミステリ・オカルト・文学の4つのカテゴリーを突拍子もない奇想で自在に料理する異才スラデックの傑作23編を選りすぐった日本オリジナル短編集です。著者の本職SF作家としての持ち味は、何といってもブラック・ユーモアたっぷりの文明批判です。どうも、作者の描き出す未来の姿はろくなものでなく希望は全く持てないようです。そこには強烈な皮肉が潜んでいて、戦争によって破滅するといったありふれた物ではなく、人間の怠惰さが倦怠を呼んで遂に自己制御出来なくなるといった類の悪夢が展開されます。私がこの天才作家について唯一物足りないと感じる点は、全てが割り切ったゲーム感覚で書かれていて人を感動させたり人間性を掘り下げたりは絶対にしない創作態度です。またサービス精神が過ぎて時に荒唐無稽な出鱈目理論を際限もなく繰り返し読み手をうんざりさせて敬遠される部分もありますが、それでも著者の芸風を把握し素直に楽しむ事が出来れば奇妙奇天烈な世界にのめり込んで病みつきになるでしょう。エイリアンの残酷さを描いた『超越のサンドイッチ』『ホワイトハット』(人間が馬のように扱われ、挙句に怪我をしてしまい涙混じりで慈悲を施されます。)、強制収容所をも連想させる残酷童話『血とショウガパン』、灰色の未来『高速道路』『おつぎのこびと』『おとんまたち全員集合!』、鮮やかな切れ味の本格ミステリ『見えざる手によって』、あっ!と驚く『不在の友に』、真実も混じる伝奇ホラー『小熊座』、強引で何でも有りの落ちの『蒸気駆動の少年』が印象的でした。誠に残念ですが著者は既に2000年に62歳で病没されており新作は読めません。帯には‘(たぶん)最初で最後の決定版!’と書かれておりましたが、私としては本書が起爆剤となって人気爆発を呼んで、どんどん未訳作品が紹介されれば良いなと強く願います。