論語の名言の解釈とそれに関連した著者の思考の逍遥が素晴らしい。
★★★★★
「はじめに」で著者が、論語を全部読むことは普通の人には無理で、その必要もなく、本書は論語約五百章から抜粋して解釈するというより、それについてエッセイを綴ったつもりだ、そして説教調を避けたと述べており、読者は敷居の高さを感じずに論語の世界に入り、名言を味わい、古代はもちろん近代までの中国の時空に思いをはせることができる。確かに最高の導き手による、アジアの「古典の中の古典」へのいざないだ。
論語二十篇の順に、各篇の核となる章の原文に平易な現代日本語訳をつけ、論語の名言は網羅されている。まず読者は、山県「有朋」、「学習」院、「三省」堂など論語由来の言葉・名言の多さに気づくだろう。私は、「忠告」が論語起源であることを初めて知った。そして、各篇各章に関連して著者の博識に基づく思考の逍遥につきあうのが楽しい。論語の古臭さの例とされる章も決して後進的ではない。表意文字で書かれた古代中国語は現代人でも読めるが、紙のない時代に竹簡に墨書したり刻むので、当時のわかりきった表現は省略して簡略化したことと、当時の常識が後世でもそうとは限らないことに起因して、古今の学者の多彩な解釈があるのが面白い。
孔子の生涯とその時代、弟子たちの個性、孔子による管仲や子産の評価等にも筆が及ぶ。なるほど、論語は倫理のテキストであるばかりでなく、歴史学・言語学・民俗学の宝庫だ。世のためになりたいという孔子の焦燥感は人間孔子の実像を見る思いがする。論語が近代中国の革新を支える道具ともなった点は、同著者の「儒教三千年」でも触れており、同書の併読がお薦めだ。
「義を見て為ざるは、勇なきなり」に関連して、清末の女性活動家秋瑾の遺体を敢然と引き取った二人の勇気ある女性の話が一番心に染みた。
中華の巨匠による、論語の入門書としては美味!?
★★★☆☆
論語に収められている全499章の内の134章分をチョイスして、孔子の人となりを描くとともに著者のコメントが加えられた本です。分量が229ページで、字の大きさも読みやすいサイズですから、そこに134章分の読み下し文と、それに対する著者自身の考えを書き込むとなると、消化不良のようなところも見受けられます。正直、陳舜臣さんが書かれた論語ということで、もっと“トキメキ”が散りばめられていることを期待していたのですが、正直“食い足りない”印象です。中国料理の達人の手による炒飯を食べてみたけど、期待を上回る味付けではなくて、けっこうフツーの味だった・・・・・・というような感じですかね。陳舜臣さんには、『論語抄』ではなくて、腰を据えたカタチの『論語』の本を書いて頂きたいと思います。しかし、これは“論語知らずの論語好き”から見た印象であって、論語の入門書として見るならば、お薦めできる1冊でしょうね。ただ、価格と中味で比較すればあれば、これ以外の本を選ぶこともできますけどね。