全体に未完成な歌唱
★★☆☆☆
よく言えば素朴、悪く言えば朴訥な歌唱である。フレーズの歌い回しやディクションに顕著な生硬さがみられる。CD収録曲の中には素朴さが功を奏している楽曲もあれば、朴訥さが悪い方に出ている楽曲もある。
また、A音以上の高音域の取り扱いに課題がある。いくらリリコ・スピントの声質であっても、中低音域の広がったままの声で高音を出すのはいささか無理があり、(もし生で聴いたら)響きの落ちた「そば鳴り」の声を出していると考えられる。もっと重い声のクーラ氏やジャコミーニ氏なども、高音域は軽く当たる部分で声を出しており、これが出来ると聴き手に「輝かしい声」という印象を与える。
当CDにおいて秋川氏はまだその領域を使い切れていないため、「詰まった響かない高音」という印象を受けるものと考えられる。
リリコ・スピントとは程遠い歌唱に愕然
★★☆☆☆
解説書に稀少なリリコ・スピントと書かれているが、その評価は妥当とは思われなかった。ピアノ伴奏での歌唱が選択されたのは真っ向勝負で好ましいが、時期尚早である。第1曲のオーソレミオはテンポが遅すぎる。このため、歌は間延びし、中音域には輝きも張りも感じられない。高音域も不安定でである。充分な高音に達せず、ビブラートがかかり、無闇に伸ばされている。第2曲以降も、一本調子に終始している。根本的に、中音域の声が余りにも未完成で、当然ながら、高音に移行する際のポジショニングが不安定である。その高音域は、声が出ているというよりは、こもったような声を搾り出しているので、声量も輝きもなく、瞬間的に失速して、低空飛行し、激しいビブラートをかけて延々と伸ばすため、聞きづらい。リリコ・スピントとは程遠く、素人喉自慢を延々と聞かされた気分になる。ブーイングが起こりそうだ。一方、ピアノ伴奏は優れた演奏である。