とかく「庶民的」と評される朝永の印象を、作家の円地文子は「日本のインテリゲンチュアのトップクラスの方なのに、そういう特別な人間ということを少しも意識しておられないように見える」と語っている。そうした人柄を反映してか、本書に収められた文章は、実におおらかで、ユーモアたっぷりにつづられているものが多い。また、近所の子どもたちや、庭に集まる鳥、あるいは季節の花々を描きとった随筆などは、理論物理学者の手によるものとは思えないほど感性豊かで、人間味あふれるものとなっている。
なお、本書には難解な数式や理論などはいっさい出てこない。教育者としての朝永は、科学技術が台頭する20世紀において、科学の基礎となる物理学の知識が必須であることを見通し、とくに「文科系へ行く人には、文科系の物理というものがあるんじゃないか」として、一般教養としての物理学の重要性を説いた。本書は、物理と聞いただけで敬遠してしまうような文化系の、とくに若い読者にぜひ読んでいただきたい。(中島正敏)
千差万別で,例えば同時に受賞したFeynmanなどは とにかく個性的で,いくつも逸話がある. じゃあ朝永さんは…?とお思いになったなら, 是非この本を読んでみてください.