誇張無しのヒトラー伝、ノンフィクションの底力。
★★★★☆
同名の映画の原作。歴史家が何人もの関係者の証言や当時の資料をもとに、厳密に当時の状況を再構成しようとしたもの。
これまでは悪魔化するかカリカチュアか、で描かれてきたことがほとんどだったヒトラー。
この本は、そのヒトラーの「人間」としての様子を、誇張無しで史料から出来る限り客観的に浮き彫りにしようとしているのが最大の特徴。
それだけでなく、ゲッベルス・ヒムラーなどの、彼を取り巻く側近達の動向も同様に細かく検証され、描かれている。そのため、ナチス上層部の最後の状況が異様な緊迫感と共に、ストレートに伝わってくる。
日ごとに「崩壊」していったと描写されるヒトラーの病気・異常行動の様子も興味深いし、最後の舞台となった「総統地下壕」の平面図が付されているのも便利。
関係者の証言が食い違うことから来る解説の煩雑さを回避するために注をつけなかった、とのことで、そのために文章のテンポが良く、小説感覚で読めるところがよい。とはいえ内容は当然、非常に重苦しいものだけれど。
本書はヒトラーの本質に迫った良書
★★★★★
ヒトラーの死とナチスドイツの滅亡についての本で、悪魔としてでもなく間抜けとしてでもない、人間らしい論理の整合性のとれたヒトラー像を描き出す。
20世紀最大の人物として、政治的理由もあり、実は、その最後ですらも、証言があまたにあり、歴史的事実として確定できず、物語としてしか語ることの出来ないヒトラーの死。
その死を意味するものはなんだったのか、なぜ、悪魔かそれとも間抜けか、そのようなヒトラーに優秀なドイツ人は滅亡寸前まで従ったのか、その実像に迫っていると言ってもいいと思います。
簡単に言うと、ドイツ英雄物語ニーベルンゲンの指輪になぞらえて、ヒトラーと興隆と滅亡、しいては、ナチスドイツ帝国の興隆と滅亡を描き出した、ヒトラーはその死と滅亡を一つの物語して描いたということのようです。
だからこそ、歴戦の将軍達も、優秀な学者達も、伍長あがりのヒトラーに付き従い、そして、滅亡へとひた走ったとのこと。
物語としての叙述も、そして、翻訳も読みやすく、おもしろい本でした。
あくまでもヒトラー理解のための「一助」
★★★☆☆
「人生は弱さを許しはしない」
社会ダーウィニズムという誤った優生学の名の下、ユダヤ人を含めたすべての弱者を
「反」人間的な冷酷さで消し去ったこのアドルフ・ヒトラーという男。
然るにこのような表現は彼の一側面を表しているに過ぎず、いまだに理解不足と
誇張、誤解から我々はヒトラーそのものを十分に理解しているとはいいがたい。
本書はベルリンの地下壕に潜伏した末期のヒトラーを人間的側面から描写しているが、
残念ながら末期という状態での一側面を捉えているに過ぎず、
はじめてヒトラーについて読む方にはいたずらな誤解を与えるおそれすらある。
自らの死がドイツそのものの死を意味すると信じて疑わず、最期の最期まで
地下壕で自らに恐るべき信念を持たせ続けた男は歴史に何を残したのか?
訳者あとがきにもあるように歴史的事実の大部分は物語られた事実に過ぎず、
つまり歴史とは記述者の数だけあると言っても過言ではない。
悪の所業という常に固定された視座のみからナチズム時代を捉えるのではなく、
様々な文献それぞれから時代の真実を抽出し、それを丹念に自分の中で
つむいでいくような忍耐強い姿勢が我々には求められるのではないだろうか。
狂気と天才
★★★★☆
最初に言えば、ヒトラーとナチス(ナチズム)に関して、あまりにも知識不足である故、本書を単なる伝記物としてしか読めなかった。
何故、ヒトラーが台頭し、ヨーロッパ諸国はそれを阻止できなかったのか?
第1次世界大戦の敗戦国であるドイツが、わずかの間にヨーロッパ全土を戦火に塗れさせたのか?
著者の観点はその部分の説明が不足していると思われる。(私が無知なだけかもしれないが・・・)
また、著者はヒトラーを描くについて、同情的な部分が見受けられ気がする。これも私の無知なるが故の勘違いだろうか?
内容の解釈はともかくとして、ベルリン陥落までの12日間、
狂気が狂気を呼び、正気でいることが狂気のように思える時間の中で、世界中を戦争に巻き込んだ数人の男たちの様子に背筋がぞっとした。
振返ってわが国。終戦までの数日間を時の指導者たちはどのように過ごしたのか。それを伝えるものがない。
願わくば、そこを伝えてほしい。
無責任に「戦争責任」を叫ぶ前に、為政者、天皇のその数日間を日本人の手で書いてもらいたいものだ。
とにかく、関連本を読んだあとに再度読み直してみる必要があると感じた。
訳について
★★☆☆☆
ドイツでもかなり話題になった話題作でもあるし、
僕自身最近歴史を物語的に臨場感を持って描いて
いるような本を好んで読んでるのでその延長といっ
た感じでこの本を読んでみようと思った。
この本はご承知の通り映画版に合わせて訳されたものです。
それで時間がなったようですが、
訳者も後書きで認めているように明らかに、
軍事分野に関する訳が曖昧になっている。全体的な訳も所々
単語を羅列したような訳になっていて、全く文章がバラバラになっ
ているところがある。さらに、残念なことに前書きのところの訳がここぞという
ところでしっくり来ない。例えばカタストロフィーに関する
概念のところである。
さらにいえば地図ももう少し状況を多角的に見られる複数の地図が
ほしいところだ。原書をドイツ語ができるのなら読んだ方が
良いと思う。