遠野版極道物の魅力
★★★★★
情熱シリーズもそうだけれど、極道×極道そのものよりも、その周辺の人物のドラマがとても魅力的。
今回も、元若頭・海棠×元組長の男妾・真柴のカップリング。
二人の関係性がメインだったので、正直ストーリーはかなり端折られていて尻切れトンボですらあるけれど
不思議と不満はない。
男妾といっても、借金の形とかそういった悲惨な背景はなく、
二丁目のバーテンからスカウトされて囲われただけ。
5年囲われているうちに通信制の大学で学んで、男妾契約解除されてから起業。
青年実業家として成功を収める真柴。淡々とした人生。
そんな、美貌・頭脳・胆力・淫乱とすべてを兼ね備えたクールな真柴が、海棠への執着だけを心に秘めている様が
なんとも胸を熱くさせます。
組を追われた海棠を拾い上げる雨の公園での下りは、恋焦がれていた男をやっと手に入れられるという真柴の歓喜が押し寄せてきて、そのテのシーンよりずっと興奮しました。
対する海棠は寡黙・不言実行の古風な男。
命を救われた真柴に忠実に仕える・・・実際は命令されるふりしてそばにいるのを歓びにしていたわけですが。
読者にはうすうす想いが通じ合っているのがわかっているのに、真柴が自分を卑下して悶々とするのが楽しい。
おそらく海棠もそれを味わっていたのではないかと思うにつけ、確かに一筋縄ではいかない男と納得。
情熱シリーズがお好きな方はツボだと思いますし、かつての遠野ファンが読んでもがっかりしないクオリティだと思います。
文章が丁寧で癖もなく、心理描写も細かいので、キャラの行動が理解できずストレスになるようなことがありません。
極道物の常で暴力シーンが多少ありますが、ほかのジャンルと大差なし。獣姦も未遂ですし、万人向けかと。