広告とは、「商品を売る」ことに最終的には辿り着かないと意味がないことは確かであろう。反響ある広告が、その商品の実力以上に付加価値を与え、ヒット商品となる可能性は確かにある。しかし、そんな偶然を最初から当て込んでよいのだろうか?
そして、本書はそもそも論として、その商品(事業)にそれだけの「志」があるかどうかを非常に重要視する。「志」とは、(1)ドメイン(事業領域)=その事業が何をするのか(2)卓越する意思と方向、という意味で定義しているけれども、なんてことはない。要するに「何をホンキでしたいのか?」ということに尽きる、が、これが意外と難しい。ついつい「アンケート」を盾に「消費者は飽きっぽい」だとか、「外部環境の変化が激しい」という逃げ道にひたすら入ってしまうからだ。何かに妥協してしまった結果、いよいよ「志」のない商品となってしまい、「売ります」ということだけが目的となり、「大物女優に商品を笑顔で持たせる」という何の脈絡もない「ダサイ」広告が出来上がる。
「広告」は、「トップマネージメント」という視点も、本書では随所に語られている。経営者がかかわらなければ、担当者が変わるごとに公宣の方針は変わり、結局ブランディングは出来ない、どころか、おそらくブランドを崩壊させかねない。
結局、現代の広告から判断される症例は、みんなに好かれたい、だとか、アイドルが好きだとか、あれも言いたい、これも言いたい、だとか、要するに自然な自分をよく見せようとしすぎていることにその原因が求められている。
本書はさらにクライアントの症例分析だけではなく、広告業界の病にも迫っている。「競争=コンペ」の中で、ドクターであるべき広告業界自体も、ある意味疲弊し、きちんと処方箋を出すことが出来ていない現状が浮き彫りとなっている。
「対話方式」がリズムよく、そして、自分もその中の議論に意加わっている感覚で考えながら読むことができる本だった。ぜひ一読を。