スタインとシャカルチによる21世紀の解析教程
★★★★★
フーリエ解析の入門書は既に数多く出版されているが、本書はそれらの中でベストといえるほど優れている。どこが優れているのか、以下に述べてみたい。
先ず、厳選された演習問題に面白いものが沢山ある。難しい問題には適切な誘導とヒントが与えられており、読者自ら手を動かし考える事により、最終結論に到達できる所がとても良い。例えば、「関数がα(>1/2)次のヘルダー条件を満たすとき、そのフーリエ級数は絶対収束する」というベルンシュタインの定理の証明や高次元の上半空間のディリクレ問題のポアソン核を計算する問題などはその典型であり、「素晴らしい」の一言に尽きる。
次に、フーリエ変換の応用として、ポアソンの和公式と偏微分方程式の解説が素晴らしい。ポアソンの和公式は「関数を周期1に周期化した関数のフーリエ級数展開である」とズバリ指摘されている。これから「円周上の熱核と実数直線上の熱核の関係」、「円板と上半平面のポアソン核の相互関係」、更に「アイゼンシュタイン和に関するリプシッツの公式」などが極めて自然に理解できる。波動方程式のコーシー問題のポアソンの波動公式とラドン変換の再生公式の解説も非常に面白い。空間次元が3より大きい場合に、それらがどの様に拡張されるかまで触れられており、読者の興味をそそる。
最後に、フーリエ解析と実関数論や解析数論との関連の解説が優れている。「フーリエ級数が発散する連続関数」や「至る所微分不可能な連続関数」の初等的な構成例が提示されている。また、ディリクレの素数定理において、キーポイントとなるL(1,χ)≠0(χ≠χ0)の証明に双曲線総和法によるユニーク証明が与えられ、更にL(1,χ)の値を具体的に求める素敵な公式まで紹介されている。
解析学の面白さを初学者にも経験者にも伝えるこのシリーズは、21世紀の新しい解析教程であると思う。ぜひ一読される事をお薦めしたい。