古典解析としての複素解析を堪能できるプリンストン大学の講義録
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プリンストン解析学講義の第2巻の和訳であり、複素解析の基礎に加え、古典解析としての複素解析を十分に堪能できる優れた入門書である。本書の大きな特徴として以下の2点を挙げたい。
先ず、複素解析の通常の入門書で殆ど扱われることがない他の分野との関連・交流が解説されていて、極めてユニークである。フーリエ変換の章では、フーリエ変換がコンパクトな台を持つ関数を特徴付けるペーリー・ウィーナーの美しい定理が解説されている。また、メリン変換やポアソンの和公式の解説があり、それらがゼータ関数と素数定理やテータ関数の変換公式など、数論に関する話題に自然に繋がっていく様子がよく分かる。但し、楕円関数とテータ関数の解説は入門レベルに留まっているので、Whittaker-Watsonや梅村先生の本などで更に補充されると良いと思う
次に、他の入門書では簡単にしか扱われていない複素解析固有の興味深い話題が詳しく解説されており非常に有益である。有限増大度の整関数に関するアダマールの因数分解定理、等角写像(リーマンの写像定理)と調和関数(ディリクレ問題)との深い関係、上半平面から多角形への等角写像を与えるシュワルツ・クリストッフェルの公式、単連結性とジョルダンの曲線定理、などの解説がこの好例である。特に「等角写像」を解説する第8章は、本文及び演習問題ともに非常に面白く、本書のハイライトと言える。
各章末にある演習問題を考えて解くことが本書の楽しさの大きな源泉でもあるので、ぜひ挑戦して頂きたい。プリンストンにおける解析学の講義+演習のレベルの高さを実感されるであろう。「複素解析を少し高い視点から復習してみたい」と考えている方に特にお薦めしたい好著である。