谷口ジロー動物漫画の傑作。前作「ブランカ」を読んでから読むべき一冊。
★★★★★
傑作「ブランカ」の続編として、96年に発表された作品。「ブランカ」が描かれたのが85年だから、10年後に描かれた続編であるが、前編に劣らない傑作だ。
10年の間に著者の作風(原作なしのオリジナル)も、劇画的な要素の濃いものから、心の機微に触れるようなものに変化してきたので、本作も、ブランカの子である「タイガ」「ナギ」と人間の心のやり取りを重視した、前作以上に奥行きの深いストーリーとなっている。しかし、「ブランカ」と本作「神の犬」に優劣はつけることが出来ない。「ブランカ」を読んでこそ「神の犬」の素晴らしさも引き立つのである。
この作品の魅力は、ストーリーとともに谷口ジローの圧倒的な画力で描かれる「タイガ」と「ナギ」にある。その動き。その表情。その仕草。完璧である。唸るしかない。
動物、あるいは動物と人間というテーマは、谷口ジローにとって大事なものである。短篇を中心として作品も多いが、前編の「ブランカ」、そしてこの「神の犬」はこのテーマを描いたものとしては代表作の一つといえる。
著者の作品に「餓狼伝」というプロレスラーと空手家の闘いを描いたものがある。その“単行本”のあとがきで原作者の夢枕獏が『谷口さんは、プロボクサー、アマレスラー、プロレスラーの肉体の違いをはっきり描き分けられる稀有な作家である』と記しているのだが、谷口ジローは『人間ばかりではなく犬の肉体と表情の違いをはっきりと描きわけられる作家』でもある。それは、著者の飼っていた犬が老衰で徐々に弱って死んでゆく様子を描いた「犬を飼う」という作品との比較でも知ることが出来る。
この作品は、その後文庫化されたこともあり、単行本の入手は難しい状況にあったのだが、やはり谷口ジローの絵は単行本で味わうべきだと思っていたので、この単行本としての復刊はファンとしては非常に嬉しい。