「21世紀に生きる君たちへ」を収録
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第14巻は1987年から1990年、司馬63歳から67歳の頃のものである。
氏が交遊録のなかで何度も語ってきた富士正晴氏への弔文がいくつか含まれている。年をとるということはなんと残酷なことだろう。ほかにも開高健や山村雄一など同年輩の友人知人への弔文が散見される。氏の深い悲しみが胸をうつ。
また司馬氏自身の送る会で読まれたという「二十一世紀に生きる君たちへ」が採録されている。書かれたのは平成元年だが、この中ですでに自分は21世紀を見ることはできない、と予言している。そして7年後、その予言どおりになった。そのことを思いつつ、子供たちに未来を託す司馬の熱い思いに不覚にも涙してしまった。名文中の名文である。
ハンモックに揺られて
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海外出張の機内で読み終えた。
司馬遼太郎の本が余りに賛美されているので たまに読むと好きなのだが 何となく距離も置いていたのがこの10年である。そんな中で久しぶりに司馬の随筆を読み始めたが すっかり引き込まれた。
司馬の著作の大きな特徴は 綺麗な日本語にある。どことなくのんびりして おおらかな文章には独特のリズムがある。心地よいリズムと言い切れると思う。そんな ハンモックで揺れているような心地よさの中で 司馬がゆっくり語る諸々の話は耳に心地よい。そう 司馬の文章は心地よさが小生にとっては 大事であったのだ。
それにしても司馬の影響力は絶大だったし 今なお絶後である。20世紀を振り返って 最も日本に影響を与えた一人であると 今なお思ってしまう。歴史作家が であることを考えるとこれは凄いことだと思う。司馬への評価は まだまだこれからであると確信する。
昭和から平成へ〜バブルが崩壊しても、世界に目を向けられていた司馬さんの姿勢。
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これは、1987年から約3年間のエッセイを集めたもの。
「韃靼疾風録」を執筆され、1990年にはNHKで「翔ぶが如く」が放映されていました。「明治という国家」を同時期に執筆されていますから、「翔ぶが如く」の時代を検証しながら明治という時代をあらためて見つめられていたのかもしれませんね。
この最中、89年に昭和が平成へと移りました。
90年にはバブルが崩壊して、日本の経済成長が低迷傾向を示し始め、日本が10年間の空白の期間に入った頃でした。
「「長安」とはなにか(上方花舞台)」で、長安の国際都市としての役割や歴史を物語られています。
興味深いのは、「雑感としての「閔妃(ミンビ)暗殺」」を記され、角田房子さんの「閔妃(ミンビ)暗殺」の選評で、19世紀の朝鮮状況と権力や儒教について語っておられることです。中国との関係では、単純すぎるほどに透き通った朝鮮の体制を、歴史的に物語っておられます。
時代や経済がどのように変わろうと、常に世界に目を向けておられた司馬さんの姿勢に感銘を受けます。