正しい精神疾患の知識が得られる。
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鬱病の生涯有病率は全人口の15%と言われる。かつては200人に一人と言われた統合失調症は今は100人に一人とも80人に一人とも言われる。精神疾患は誰でもなる可能性がある。これが自分の知っているおおざっぱな情報だ。
この本では、メディアによって「心の病」が取り上げられることにより、垣根は低くなったものの、あきらかに間違った使われ方をされている場合もあることを正確に指摘している。その具体例として、第一章ではPTSDを扱い、ある芸能人の離婚会見の後、「自称PTSD」が激増したことが書かれている。第二章はトラウマ信奉について。もちろん、あきらかにトラウマによる精神疾患もあるのだが、あまりにも軽く使われすぎていることがよくわかる。以下、それぞれの章に分けて、ADHD、鬱病、ボーダーライン、自傷、統合失調症、薬物依存などについて、きちんとした具体例を挙げて説明がされているので大変わかりやすい。
近頃は「プチ鬱」などと言う、本当に鬱で苦しんでいる人が読んだら腹立たしいような言葉もまかり通っているが、本当の鬱はそんな生やさしい物ではないことがよくわかる。精神疾患に「プチ」はないのだ。
現役の精神科医によって書かれたこの本、大変勉強になった。お勧め。
考えさせられます。
★★★★☆
この本は、現役の精神科医から見た、ぶっちゃけて言ってしまうと「メディアに踊らされて自分はココロノヤマイだと思い込む現象」を告発してる本です…かね。
精神疾患は、単なる病気で、美化するものでも酔いしれるものでもなく、他人に誇るようなものでもないのに、インターネットの普及で、「心の傷をさらけ出す快感」を知った人達が「自傷系サイト」なんかを作ってしまう。
それは恐らく「人に話して同情される程度」のココロノヤマイで、またメディアにとっても「報道できる程度」のヤマイで、「商売になる」ものなんだ…というわけですね。
自分探しにも似た、「あなたが今現在不幸な原因」をトラウマだの家庭環境だのに求めているわけで、その手の特集を見たり、書籍を読んで安心したい人…というのはいるわけです。
その陰で、決して報道できるようなものではない、本当に苦しんでいる患者さんもいるのだと。
私が強く思うのは、「人の心(脳)は、その人の聖域であり、絶対に他人がコントロールすべきでない」ということです。
…とはいえ、実際には、誰しもが何かに誘導され、コントロールされ、洗脳されているのは確かです。
まったく何からも影響を受けない存在…というのはありえません。
けれど、少なくとも、流されるのではなく「自分で選んでいる」と、意識することって大切なんじゃないかな…と思うんです。
心の問題というのは、他人が踏み込むのは難しい領域なんだな…と、この本を読んでも思います。
自分の心の王国の王様は自分自身です。それは、良くも悪くも…です。
自分を救えるのは、自分自身…そう思います。
必要であれば、他者の力を借りるのもいいでしょう。
でも、それを選ぶのも「自分」である…ということは、意識して欲しい。
本当の意味で、自分を大切にしよう…?そう思います。
臨床医の冷徹な視線
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PTSDやトラウマといった語が、本来の意味と離れたところで乱用される現状、また専門知識もない心理本のライターが無責任に捏造する造語、耳あたりのよいそれらの造語に飛びつき報道するマスコミを、冷静な視線で論破しています。鋭い理論展開の後ろに、著者の豊富な臨床体験と膨大な勉強量を感じます。そして、臨床医として「心の病」の人々を尊重する態度にも信頼がもてます。