2冊買う必要はない
★★★☆☆
私は、早まって同じ著者の「アスペルガー症候群の天才たち」
も買ってしまったが,内容は大同小異なので,
研究者でもなければダブって買う必要はないと思われる。
欧米では,昔の天才は「みんなアスペルガーだった」
と言うような本が流行りのようで,邦訳も数点、出ている。
でも、極端に走るのは,往々にして誤りで,
天才にはアスペルガーではなかった人のほうが多かった
と言うのが事実だろう。
アスペルガーの人を元気づけるというが,
元気づけてもらえるのは,親ぐらいで,
当事者は,自分のあまりの普通さに
嘆くケースの方が多いのではないか。
本書は,文学部系の臨床心理士が監修し若手の弟子に
訳を任せている。この訳が生硬で,とても読みにくい。
さらに,私が全く信用をおいていない,
河合隼雄氏の流れをくむ臨床心理士であるのは、残念な限りである。
訳者あとがきで,精神鑑定のF氏を持ち上げているのを見て,
全文を読み終えていた私は激しく後悔した。
ちなみに「アスペルガー症候群の天才たち」の方の訳者は
医学部系の精神科医である。
個性と魅力の裏にあるもの
★★★★★
この本に取り上げられている芸術家は、作家がジョナサン・スウィフト、アンデルセン、メルヴィル、ルイス・キャロル、イェイツ、コナン・ドイル、ジョージ・オーウェル。
哲学者がスピノザ、カント、シモーヌ・ヴェイユ。
音楽家がモーツァルト、ベートーヴェン、サティ、バルトーク。
画家がゴッホ、L・S・ローリー、アンディー・ウォーホル。
皆、一風変わった作風で、時代を超えて魅力を放ち続ける作品をつくった人たちだ。
この本では、彼らが人間的にも「変わっていて」「社会に適応できなかった」ことを述べている。
それがほんとうにアスペルガー症候群の証拠になるのかどうかは疑問が残るが、彼らのほんとうに変わった性格や行動は、興味深い。
理知的な印象のあるコナン・ドイルが妖精や幽霊を心から信じていたり、アンディー・ウォーホルが「ティファニーで朝食を」のカポーティをストーカーしていたり…
幼少期も含めて丁寧に人生をなぞっていて、知られざる話題が多いので、上記の芸術家たちに興味をもっている人は、一読の価値があると思います。
パトグラフィー入門
★★★★☆
様々な分野(文学・哲学・音楽・絵画)の天才たちが持つ逸話を、アスペルガ−症候群の示す症状(社会性の欠如・狭い興味関心と強迫観念・率直さと素直さ等)に照らしてまとめたもの。自らの抱えた認識の歪みを、芸術的独創性にまで昇華させた天才(と呼ばれる人)たちの深い苦悩が窺えます。
それにしても こうした研究自体が、人間のもつ能力の個別性を前提とする欧米文化から生まれたことはある程度必然的であるとはいえ、訳者あとがきにある「“日本”ではASの人は'空気の読めないKYさん''奇異な犯罪も犯しかねない人'として見られている現状を打破するのに、「天才にもASの人がいる」ということを紹介したかった」という一文は、すこし残念な気がしないでもありません。