本書の特長は二点あると思う。
第一に、論点に沿って実際の研究例を列挙している点。これによって、空中戦が回避されるとともに、すぐれた研究がどのような点ですぐれているのか再確認できる。
第二に、みずからの研究の「バイアス」(「誤差」)を報告することが最重要だとしている点。世界理解の不確実性を前提としたうえで、ドグマや空中戦に陥らずに、研究の質を(学問全体として持続的に)向上させるためにはどうすればよいか。この堅実な意識が随所からうかがえる。
留意点を二つ。
第一に、初歩的な統計学的概念・手法がときおり出てくるが、読んでもよくわからない場合は、基本的な統計学の教科書で確認されたい。
第二に、社会科学のアプローチの多様性が描き出されていない。この点については、さしあたって今田高俊(編)『リアリティの捉え方』をおすすめする。