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司馬遼太郎が考えたこと〈5〉エッセイ1970.2~1972.4 (新潮文庫)

価格: ¥700
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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日本の習俗と、独特の権力構造についての考察。秀逸です。 ★★★★★
第5巻は昭和45年から47年、司馬46歳から48歳の頃のものである。

主な話題は、日本の古くからの習俗と、日本的体制や権力のありかたについての考察の二つ。

習俗については、日本人の名前、顔、旅、お金、服飾、言葉、門構えなど、それぞれのルーツに触れていて、大変興味深い。「西郷隆盛」は実はお父さんの名前で、本人は「西郷隆永」がほんとうの名前なんだそうだ。また宮本武蔵の頃は一文なしでも旅が続けられたとか。なかなかおもしろい。

日本的権力についての考察では、アジアの中にあって、日本だけが専制君主をもたず、権力(=幕府)と権威(=朝廷)の二重構造による体制を維持してきた、という。そして、この権力の分散構造こそが、明治維新以降の資本主義の導入を容易にし、日本発展の原動力となった、と喝破する。

資本主義は、汚職のない清廉な権力の中でしか、機能しない。資本主義⇒拝金主義⇒道徳秩序の荒廃、というのは実は単なるイメージでしかなく、ほんとうは全く逆であって、道徳をやかましくいう国(=儒教国)ほど官吏の汚職、腐敗が激しい。こういう新たなものの見方を提供してくれることが、歴史の面白さであり、司馬の面白さだと思う。

30年以上前の評論ではあるが、全く古びていない。このことは逆に、この30年間、日本はまったく停滞していたことをも意味する。

「戦後、日本には有史以来の大変化が訪れた。それは飢えからの開放である。このため、飢餓や貧困が支えていた原理が無用になった。生きる目的をどこに求めたらいいか、わからなくなってしまった。腹いっぱいになったために、我々は逆に悲惨な課題を背負ってしまったのである。とりあえず自殺者が増えるだろう。」

という。これが1970年の「司馬遼太郎が考えたこと」である。35年後、21世紀の今日をみるに、なにも変わっていないことに暗然たる思いを抱かざるをえない。

日本の将来へのメッセージを綴られた書です。 ★★★★★
 これは、1970年2月から約2年間に執筆されたエッセイ集です。
 当時は、「覇王の家」を執筆されながら、「翔ぶが如く」の構想を練られていた時期だったのではないでしょうか。単行本としては「世に棲む日日」「城塞」などが刊行されていますから、国家と権力を探求されている司馬さんの視点を感じることができます。
 「日本的権力について」「太平記のその影響」では、中国や韓国との権力についてを、儒教がもたらした影響を紹介しながら説明されています。とりわけ、中国の皇帝と日本の天皇の相違を示されているのは、興味深い点です。
 また、「日本、中国、アジア」では、東アジアから日本をみつめ、それぞれの歴史と国家の相違を克明に物語られています。
 これからの中国とアジア、とりわけ日本が生きていく方向性を示唆されているようで、司馬さんからの将来のメッセージを感じることができる書です。