浅いけど エッセイとしては 面白い
★★★★☆
1.内容
経済学者が書いた東京大学の歴史といったところか。東京大学の成り立ち、官僚などのエリート輩出校としての東京大学、主流の体制派、その中にもいた反体制派の教授たちの伝記、東京大学卒業生の今後(官僚養成校の神話は崩壊しているが)、今どきの東大生気質、そして、濱田純一学長へのインタビューで構成されている。
2.評価
著者が経済学者だからか、経済学的と思われる分析は強いと感じた(一例を挙げると、p248の格差と絡めた議論)。伝記も興味深かった(反体制派の教授は著者専門の経済学部に結構いたので、特に興味深かった)。ただ、分析が少々浅く感じた(東大生だってピンからキリまであろうに、東大生=ナントカという記述が多いように感じた)。分析の浅さで星1つ減らして星4つとするが、経済学者が書いた東京大学についてのエッセイだと思えば、面白く読めること、請け合いである。
東大を通して日本の社会を理解する
★★★★☆
良きにつけ、悪しきにつけ、日本の社会に影響を与えてきた東大。最初の国立(帝国)大学とし、その後、法学部→官僚(特に旧大蔵、旧通産など)→天下り・政治家とし、産学官協同の枠組みを支配体制を形成してきた東大。現在でも偏差値ナンバー1だが、企業での出世度では、一橋や、慶應にかなわない東大。
この東大の変遷を通し、日本社会の大きな流れが理解できた。頭はいいが人付き合いは下手で、企業でのリーダーには向かない東大生は、経営者より、法律・研究者が向いているという著者の大胆予想も面白い。
こんなんじゃないのかなあ、というのりが時々見えてくる著者の語り口は、細かいところがきっちりと書かれていないときがすまない読者には向かないかもしれないが、大雑把に概観を捉えたい人には、お勧めでしょう。
まんじゅう本
★☆☆☆☆
「盛衰」とタイトルにあるが、巻末に現東大総長濱田純一との対談が載っているのを見て、ああこれじゃ本当のことは書かれていないなと思ったら案の定だった。90年代の大学改革が大失敗で、博士号をとっても定職のない東大出身者が大勢いることなど触れられていないし、濱田との対談で「最近は東大出身の作家があまりいない」と村上春樹が早大であることに触れつつ、松浦寿輝も堀江敏幸も野田秀樹も橋本治も小林恭二も三浦俊彦も小野正嗣も知らないらしく、「柴田翔は芥川賞をとったのにドイツ文学の先生になってしまったのはなぜでしょう」ってそんなこと文学の素人の濱田に訊いて分かるはずがなくて全然答えになっていない。本当に橘木がそれを知りたいなら柴田に直接訊けばよい。
さらに冒頭で、東大生の学力低下を否定するのだが、立花隆が言い出したことで、立花は東大以外の大学を知らないから期待水準が高かったと言うのは意味不明で、東大卒だから「俺のころに比べて教養がなくなった」と分かるのであって、小樽商科大学から阪大院の著者こそ、東大卒じゃないし東大で教えてもいないから分からないのだと言うべきだろう。
全体として、東大のお墨付き、東大の葬儀の時に配るまんじゅう本みたいなものだ。