犬が「自分」や「仲間」や「親」や「子」をどのように意識しながら生活をしているのか。それがまず、大変興味深い。集団の中での自己意識、というレベルでは人間もあんまり変わらないんじゃないか、という気がしてくるのが不思議だ。
飼い主としての愛情、犬たちとの心温まる交流といったエピソードも、もちろん膨大にあっただろうが、本書は、飼い主の感情は徹底的に廃し、犬の個体としての行動、犬社会のなかでの行動を坦々と綴っていく。それがために、全体に感情の起伏を抑えた大変静かな印象の本であるが、逆にその背景にとても大きく深い犬たちへの愛情が感じられて、それが静かな感動を呼ぶ。
動物を愛する人にとって、名著といっていいだろう。
人間も動物である。だから、人間社会が「複雑怪奇」と感じたら、動物の行動学系の本を読むといい。そこでは欲望のベクトルが裸になっている。
本書79頁に「わが家の犬たちは…たがいの序列を見なおし、再編することに、多大の時間と精力を費やしていた。」とある。そう、権力争いと、それをひっぱるアッパークラスへの上昇志向は、人間特有のものではない。
「当たり前のこと」だと思う。でも、その「当たり前のこと」がわかんなくなっているのが、今の、この、日本の、日本人の現状なのではないか? 内からわく自分の「したい」に、躊躇することの多い人こそ、動物行動学系の本を読もう!
この本の163頁に「…そうした確固たる拠点ができてはじめて、自分がどこに帰属するか、どこに帰ってくればいいか、どこで仲間をみつけ、仲間に見つけてもらうことを期待できるか、そうしたことがはっきりするからである。」という一節。これ、犬たちの行動を観察した結果の考察だよっ!信じられる?まさに、人間の社会に対する鋭い考察だよね。
複雑に見える人間社会を裸にできる目を養うには、動物やこどもの社会の観察を通すのが一番!同じ著者の新刊も出ている。きょこちゃん、これも期待している。