水滸伝の舞台裏
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水滸伝は北宋の道君こと徽宗の時代、宋江ら粱山泊の劇盗を主人公とした物語です。外国の小説を楽しむには、よい訳に恵まれれば十分のはずですが、水滸伝は何しろ十二世紀初頭の中国が舞台の作品です。訳本ではよくわからないことが多い。たとえば、粱山泊にしても山塞の名前とばかり思っていましたが、本書によれば、泊とは浅い湖のこと。つまり粱山泊は湖水の中の水寨です。(現在は湖なぞ跡形もないが、これはたびかさなる黄河の洪水で土砂が堆積、文字通り滄海変じて桑田になったため。)
翻訳では、軍人や役人の階級名、官職名などは原語がそのまま使われるので、私たちのイメージとちがうことが多い。たとえば、大尉というのは中級軍人ではなく武官の最高位です。押司とは何か。禁軍、経略使、都監とは何か。本書は当時の社会情勢や制度について貴重な情報を満載しているので、本書を読めば、水滸伝世界の理解が格段に深まります。また蔡京、童貫ら姦臣の末路もわかり、溜飲が下がる。食人肉の習俗についても実例が列挙されており、講釈師の作り話ではないことが納得できる。水滸伝ファン必見の一冊です。
水滸伝に見る宋代中華社会の一断面
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「水滸伝」と言えば、梁山泊を拠点として108人の豪傑が暴れまわるというピカレスク、若しくはアウトロー系のお話。誰もが名前を聞いたことのある有名な中国古典文芸ですが、「西遊記」や「三国演義」などに比べると、我が国ではいま一つマイナーな観があるようです。
さて、本書は、東洋史京都学派の泰斗たる宮崎市定教授が、この水滸伝を題材に、宋代中国の政治と社会を一般向けに平易に解説するものです。
当時の皇帝徽宗の即位に至る事情と治世の混乱、天下の悪役・童貫に見る宦官の跳梁振り、典型的奸臣・蔡京の実像と当時の官僚制度、宋江や林冲らに代表される地方吏員や下級軍人の実態、さらには当時の監獄制度や道教の流行振りに至るまで、話題は縦横に亘り、当時の中国社会の息吹が伝わってくる心持ちを覚えます。
中国「近世」初期の実情を知るための真に相応しい入門の書であり、また、水滸伝そのものに対する興味を激しくそそらされる本です。中国史に対して興味があれば、水滸伝そのものへの関心があろうとなかろうと、楽しく読める一冊だと思います。
「水滸伝」を読んだ後に。
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「水滸伝」の元になった歴史的事実を、「水滸伝」と対比させ、「水滸伝」から、そこに込められた、「水滸伝」を作り伝えている民衆の考えを抽出している一冊。もちろんそれだけではなく、当時の宋の状況から、宦官・奸臣による政務の壟断方法、民衆や商人のあこがれなど、上は国際関係から下は民衆の習俗まで出てくる。なかなか興味深かった。
読みやすい一冊
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宮崎市定にしては、読みやすい読み物になる1冊ではないでしょうか。
水滸伝の魅力を語って、その奥深さを知る。
水滸入門書としても最適であり、
水滸伝関連の知識を深めた後に、また再読しても
より面白く感じる本でしょう。
宮崎市定の慧眼と鋭さの一端が窺えます。