ゴースト 「佐佐良」の幻
★★★★☆
『ゴースト ニューヨークの幻』のヒット以来、いくつ繰り返されてきたのだろう、死んだ夫が、妻が、恋人がゴーストとなって愛する人を見守り、最後に消えていくという、もはやありきたりな定番話が。
とはいえ、加納朋子が書いた作品ならと思い読んでみたところ、作者得意のやさしさ・せつなさにあふれた作品群にしっかり引き込まれてしまった。
個々にミステリー作品としてとりあげたら、別にどうっていうことのない話ばかりだが、やさしさ・せつなさにあふれたひとつの作品集として味わいのある作品である。
しかしこうなると、もはや作者の作品をミステリーというジャンルで論評することには意味はないのかもしれない。
一番好きな作品は、三人のお婆さんたちが元・同級生としてサヤの家に集結した「空っぽの箱」で、この作品で今まで地に足が着いていなかったサヤの地盤がお婆さんたちによって支えられ、安心感がもてるようになったし、単独で読み返しても面白い作品である。
全体を通して、甘ったれのサヤに対して登場人物たちがやさし過ぎるのだが、サヤがそういう皆のやさしさに支えられて生きるキャラとして、読者は自然とこれを受け容れるのだろう。ハートフルなやさしさに満ちた作品好きな人にオススメの一冊。
やさしい話
★★★★☆
突然夫が亡くなり、残された妻“さや”が、
赤ちゃん“ユウ坊”と“佐々良”という町に移り住み、
亡くなった夫に助けられながら様々な人達との出会いや、事件を通じて成長していく話。
悲しかったり、ハラハラしたり、笑えたり。
現実ではありえないと思いながらも、もしかしたら・・・とか、あったらいいなと
思えるような、そんな心温まる作品でした。
先に姉妹編である“てるてるあした”を読んでいたので、
登場人物のキャラクターがわかりやすかった。
優しさのオブラートに包まれた厳しい現実
★★★★★
優しい語り口で語られるので安心して読んでいると、ふいに厳しい現実が垣間見えてドキッとさせられる、そんな作家だ。それでも読後感がいいのは、ご本人が人間に失望していないからだろう。ご夫君の貫井徳郎氏とは、一見、正反対の世界を書いておられるように見えるが、シュレーディンガーの猫とか、クドリャフカとか、たまに共通項を見出して、いいご夫婦だなあと勝手に納得している。
読者を選ぶ作品
★★★☆☆
個人的に面白かったと問われればNoと言うよりない。ミステリとしては謎解き要素は可もなく不可もなしといったレベルだが、登場人物がそろいもそろって脳内がお花畑のようなおめでたい人たちばかりで、ストーリーやキャラクターに深みというようなものが全くないのである。
ではこの作品はどうしようもない駄作かというと、そうとも言い切れない。世の中には小説の中くらいおめでたい人ばかりで構成されたおめでたい世界で展開されるおめでたい話を楽しみたいという人がいるのも事実である。サザエさんを見て「家族の物語でありながらタラちゃんの苦悩やワカメの愛憎が全く描かれていない」などと言っても詮無いことである。
言うなればこの作品は砂糖をこれでもかとぶち込んだお菓子のような作品である。苦味やコクといった物を求める人にはお勧めできないが、「甘いもの大好き」という人なら食べてみる価値はあるだろう。
サヤとユウ坊に幸あれ
★★★★★
自分がもし幼い子と妻を残して死ぬようなことになったら残された子と妻はどうなるだろうか。自分も同じように家族が自立するまで見守ってあげたい、助けてあげたいと思います。サヤとユウ坊がこの先ずっとずっと幸せになることを心から祈ります。