上海在住。私の金魚はいなかった…
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リアルタイムで恋をしたい読者にはめちゃめちゃお勧めです。
「上海金魚」の主人公たちのその後が描かれてある「透過性恋愛装置」を先に読んでいたので、その上での感想ですが。「透過性恋愛装置」を読んだことで「上海金魚」の主役ユウキと滝乃の人となりが一層わかり。ゲイではない滝乃がなぜユウキだったのか。そして彼をちゃんと選ぶことができたのか。とてもよく分かりました。この二つの作品、世界観がまったく違います。といっても作者が同じすから「かわい作品」独特の、刹那といたいけな想いがそこには面々とあって。二作品とも主役に自己投影でき、乙女な気持のまま読み進めていける、良い意味でBL的に「でかした作品」でした。どちらが先でも後でも満足できるけど、どちらも読んでいただきたいお話。
上海金魚について。狭まい世界で安住する主人公ユウキ。そんな彼が一念をふるって、妻子もちの恋人伊藤と上海へ旅行。しかし伊藤にとっては愛人と気楽に過ごせる程度で、ユウキほどの特別感はない。だから簡単に最悪な理由でユウキを置いてきぼりに。そうはいっても伊藤なりにユウキを愛していて、その罪悪感から自分の会社の取引相手である滝乃をユウキにあてがう。そんなこんなでユウキと滝乃は上海を旅することに。家庭環境とゲイであるが故の自己否定気味なユウキ。色々あるんだろうけどそれでも人生を肯定的に生きている、晴れやかな男滝乃。ユウキは(関係ないですが私も)、もちろん滝乃に惹かれます。二人の結ばれ具合が実に良いのです。優しさと刹那で、淡々と描かれているのですが。こういった何か特別な事件があるわけではない、淡々とした状況のなかの感情の襞を、緻密な心理描写で読ませる作家さんは素直に凄いと思います。この作品は私に青春のときめきみたいな、きゅんきゅんとしたものをくれました。読者の乙女心を引き出す夢うつつな物語。堂々のお勧めです。
「オトナ」と言うもの
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主人公・佑季の恋人は、口当たりはとてもいいが、甘ったるいだけで胃にもたれるワインのような男。
お金も社会的地位もあり、ルックスもいい。気づかいもあり一見優しい。
けれどそれは、佑季(あるいは他者)の為の優しさでも思いやりでもなく、あくまでも自分自身の為のものだな、と感じました。
それに対して、佑季が旅先の上海で出会った滝乃は、同じ「優しい男」であっても全く違います。商社の営業マンという職業柄、愛想がよく如才無いのは当然として、その裏側に見える人間としての厚みのようなモノ…が非常に魅力的でした。
口当たりがいいのは同じだけれど、さわやかで気持ち良く酔える日本酒みたいな(笑)オトナだなぁ。
恋人の嘘と別れに傷ついた佑季を、滝乃が初め純粋な同情で慈しみ、それが恋から愛情へ変わる過程が丁寧で好感持てました。涼しい顔した二人がベッドでは結構熱いところもツボ。おすすめします。
透き通った水がつうと流れるような涼やかな物語
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滝乃の鷹揚で温かな人柄が、繊細な水端を優しく包み込んでいきます。
それぞれが互いへと心を寄せていく静かな時間の流れが心地よく、
旅先での出会いが、偶然の再会へとつながっていきます。
体を重ねる描写はほんの少しであるにもかかわらず、その場の空気を連想させ、
かつ、直接的な言葉を多用せずに艶やかさを表現する言葉の紡ぎ方が見事だと思いました。
表紙もこのお話にぴったりで、たゆたう金魚が美しいです。
しっとり染み入ります
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冒頭のインコの描写が秀逸。
その部分が後半の金魚のお話と対になっているようで、
とても印象的でした。
至極一般的な考えの主人公が、普通の幸せを望み、
やるせない気持ちになったりする当たり前のところが、
とても良かった。
派手さもワザとさもない、グッとくる作品です。
地味かもしれないけどすごく良かった……!
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美しい、映画を見ていたように映像が浮かぶ物語でした。主人公が自分でも気がついていた恋の綻びを見せつけられたときごく自然に寄り添ってきた商社マンのあまりのスマートさに、これが大人か~と溜め息がでていました。控えめで、派手な展開はないかもしれませんがとても素晴しい作品です。読み終わった後はタイトルだけでじーんと来るものがありましたね。