新潮社の「とんぼの本」シリーズらしい魅力的な写真が幾葉も掲載されており、いくら眺めても飽きることがありません。読者を旅へいざなうための書を目指した著者や編集者の強い意思が感じられるともいえます。
観光的な側面のみならず多種多様な角度からこの島に関して読者の興味を捉えようとする努力が構成にあらわれています。
例えば「スクリーンに映ったシチリア」(116頁~)では「ゴッドファーザーⅢ」や「ニュー・シネマ・パラダイス」、そして「山猫」など日本人に比較的知られた映画のみならず、「宣告」といった1990年の硬派の映画まで幅広い作品を取り上げています。こうした映画を旅の前にDVDなどで再見してから出かけるのも一興でしょう。
また「マフィア、シチリアの影」(74頁~)では、シチリアといえばこの犯罪者組織という連想が働く多くの読者に、そもそもマフィアとは何かについて平易な解説情報を提供してくれています。
1860年にシチリアが統一イタリアに併合されて選挙制度が導入されるにあたり、選挙の集票を請け負った人々が政治権力との癒着を始める。彼らの不正を暴こうとする人々に対しては脅迫と買収で抑圧する集団へと成長していく。こうしたマフィア黎明史を私は大変興味深く読みました。
マフィアと国家との間で近年繰り広げられている血みどろの闘いについても簡潔に触れています。
旅に出る前に手にし、旅から帰ってからも再度手にしてみたいと思う一冊です。