本書では、巡礼路一番の難所ピレネーからパンプローナ、レオンといった都市や、今では修道院のみが残る小さな村など、サンティアゴへの巡礼の道をたどりながら、巡礼者の心を和ませる魅力的なスポットを美しい写真とともに紹介。巡礼の飲と食やふたつの祝祭についても取り上げる。
さらに、巡礼路に魅せられた著名人の話も収録する。檀ふみは、『星の巡礼』、『アルケミスト』で知られるパウロ・コエーリョの案内でサンティアゴ巡礼の道をたどる。また、文化庁の在外研修員としてスペインに赴いてから巡礼の道にとりつかれ、「巡礼の道絵巻」を描き上げた真鍮鍛造の彫刻家、池田宗弘も登場。10年ぶりに巡礼の道を歩き、かつて世話になった人たちとの再会を果たす。美術史家の五十嵐美鳥は、道中にある美しい教会や修道院にふれながらスペイン美術史、ロマネスク美術をひも解いていく。
聖地巡礼は12世紀に最盛期を迎え、その数は年間50万人を数えたという。現在、巡礼路は自動車道路で寸断され、巡礼を取り巻く環境はずいぶん変化した。しかし、巡礼者たちが聖地を慕うその思いの強さは中世の人たちと何ら変わらない。(石井和人)
ロマネスク建築の「聖墳墓教会」の質実剛健さ。川面に影を落とす「王妃の橋」の澄んだ美しさ。サンティアゴ・デ・コンポステラの大聖堂が太陽に照り映えて見せる輝き。広角レンズで捉えた巡礼路写真は奥に広がる田園風景までも余すことなく切り出していて、どれもため息が出るほど魅力的です。
一方で、文章部分の構成には「はて?」と思わせる箇所がいくつもあります。
複数の著者が執筆していますが、巡礼の道の歴史に関して記述が重複しているところが散見されます。執筆者間に何か共通点があるわけでもないし、どうしてこういう共著の形を選択したのかが不明です。
女優の壇ふみさんがテレビ愛知の番組のためにブラジル人作家パウロ・コエーリョと巡礼路を終着点のサンティアゴ・デ・コンポステラからパンプローナへ向けて旅したときの記録が掲載されていますが、これにも首をかしげました。四国のお遍路には「逆打ち」といって88番札所から順に1番札所へ向けて歩く例は珍しくありませんが、サンティアゴ巡礼にはそれは当てはまらないようです。壇ふみさんが書くところによればこのルートは「もちろん、撮影のため」(87頁)なのです。番組制作上の都合でしかないこの逆巡礼はどうも横着な感じがして、この本に真にふさわしい旅の記録なのか疑問です。
4~5頁に巡礼路の地図が掲載されていますが、本書に登場する町の名前すべてが記されているわけではない点も納得がいきません。ここももう少し心配りをするべきところだったと思います。
活字部分の編集方針に写真とテーマに見合っただけの高い志が感じられない、アンバランスな本だなという印象が残りました。
檀さんの書き下ろしエッセイは、現地に行った人ならではの報告で、とても興味を持って読みました。もっと長くてもいいのに、というのが正直な感想ですが、とんぼの本(写真中心)なので、仕方ないでしょうか。
画家の方が巡礼道をすべてイラストにし、400ページにも渡る絵本にしたのは圧巻でした。本物はゴールのサンチャゴに飾られているそうです。ぜひ見たい、と思います。
巡礼を考えている方、買って損はないと思います。