かなり上級者向けのスペイン巡礼史
★★★☆☆
先日、サンチャゴ・デ・コンポステーラを訪れる前に関連書籍として手にとってみた一冊です。著者は流通経済大学社会学部教授で、専門は中近世スペイン史。
講談社現代新書は私の経験則からいうと、数ある新書群の中では岩波新書・中公新書と並んで良質な教養を提供してくれる3大新書のひとつです。それでありながら、岩波・中公に比べて文章が相対的に平易で、3新書の中では一番敷居が低いという印象を持っています。
しかし、この『スペイン巡礼史』は講談社現代新書にしては随分と硬質な文章によって綴られている気がしました。
一例を挙げてみます。
「これらの兄弟団執行部は都市寡頭支配層によってほぼ独占されたが、それは水平的結合を目指したアストルガの兄弟団が、現実には封建制社会の構成原理である垂直的結合との交点の上にしか成立しなかったことを意味する。」(210〜211頁)
こんな具合に、私のような市井の人間が咀嚼するには歯ごたえがなかなかあり過ぎて、すんなりとは胃の腑に落ちてくれない文章が多いのです。
というわけで、かなり学術的な内容に満ちているというのが率直な感想で、読み物としては、私は楽しむことができたとは言い難い一冊でした。
一方でおそらく、この分野の学究の徒にはかなり精緻な内容が盛り込まれた書であるといえるかもしれません。巡礼と慈善、巡礼と観光、そして巡礼と都市形成といった章立てによって、宗教面のみならず社会史の側面からもスペイン巡礼を見つめる試みがされていますし、膨大な資料を読みこんだ跡も見られるので、学術書としての価値を見出せる読者がいるはずです。
どちらかというと、同じ講談社でも現代新書というよりは講談社学術文庫の一冊に加えるべき書だったかもしれません。