「天は自らを助く者を助く」。誰もが一度は聞いたことがある有名な格言で始まる、サミュエル・スマイルズの「自助論」。江戸幕府が倒れ、封建時代が終わり、「自ら立って生きる道」を指し示した中村正直訳の「西国立志編」が、平易な現代語訳でよみがえった。歴史の風雪に耐えた古典がよみがえった。それはなぜか−。本書を読み進めていくと、その理由が分かる。時代が逆行し、日本が再び封建時代、あるいは社会主義の時代に戻ろうとしているからではないだろうか、と。本書で取り上げる人物は、無名の市井の人びと、貧しく身分も低い人びとが、個人の好み、努力や工夫によって成功し業績を挙げた人物、その数、300人以上。読者の等身大の現在の自分の姿を見つめ、未来の成功している自分の姿をイメージさせ、勇気づける啓蒙書である。自らを助けようとする気概、努力、正直な生き方が、サミュエル・スマイルズの時代の英国の産業興隆につながり、その勤倹努力の精神が明治以降の近代日本の繁栄の基礎をなした。「お上に頼る思想」が忍び寄る時代に、あえて個人的な努力、自助努力の大切さを説く本書は、「繁栄のための導きの星」であろう。志ある若者、たくましく未来を切り開く者限定で、秋の夜長に最適の一書である。