人間の品格について感じさせられる一品
★★★★☆
幕末を扱った小説を読むたびに思うのは、勝利者となった、あるいはその後も官界などで活躍した人物には政治的機敏さや決断力などといった能力を、そして敗者となった佐幕側の人物には行動の涼やかさや身の処し方の見事さを感じることが多い。
本書を読んで、主人公、秋月悌次郎について知るにつれ、人間的偉容、dignityといったものを強く感じた。
会津藩の文官として、桜田門外の変の後始末、薩会同盟の立役者として禁門の変に関わるという、いわば裏方として幕末という過酷な時代を生き抜きながら、その行動に濁りや先走った才気は見られない。
赤誠を持って事に当たる、その人格は早くから京都で知られ、それ故に会津の代表として信頼され、重要な局面の藩外交に関わることになる悌次郎の為人を本書は丁寧に描いている。
歴史の裏方としてその人格をかいま見せた悌次郎だが、時代の荒波が会津藩に迫ろうとする中で蝦夷地に左遷される。
それ故にその後の薩長同盟に至る政局には関与しなかったわけだが、禁門の変という大きな時代のうねりと謀略の中にそれにそぐわない赤誠の人が裏方を担ったというのが歴史の皮肉のようでなんとも興味深い。
会津藩の苦難に際して悌次郎がどう行動するのか、下巻が楽しみである。