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二つの山河 (文春文庫)

価格: ¥504
カテゴリ: 文庫
ブランド: 文藝春秋
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まことに気分のよい話である。日本人のよさがよく表れている。 ★★★★★
 これは第一次世界大戦で日本が青島で戦ったときのドイツ軍捕虜を日本各地で収容していた時の話で、徳島の板東俘虜収容所の所長を務めた、松江豊寿大佐(当時)の話である。
 松江はその後少将に進み、退役した後は乞われて会津若松の市長を務めている。どうしてかというと、彼の祖父と父は会津藩の禄を食んでおり、父・久平は戊辰の役には会津藩士として官軍と戦っている、という縁からだった。即ち、この物語は幕末時から明治と大正期にかけての会津人の生き方をも描いているのである。
 作者は、主人公が中央政府に逆らってまで俘虜たちを優遇するその根底には、幕末に賊軍扱いされた会津藩士として、逆境にある人たちへの同情心があり、同時に中央政府に対する反逆心と、更には正しいことを貫く会津武士道がある、との想定でこの物語を描いているが、恐らくそうであったと私も思う。
 話としても大変に面白かった。松江は単に俘虜としてドイツ人を扱うのではなく、各人の個性やその当時日本には希少であった技術を日本に移転してもらうことも考えたのだろう、例えば、機械技術に心得のある俘虜たちを町の工場に派遣して機械を修理させるとか、ドイツ料理やパン製造の知識を町の人たちに教えるとか、音楽の素養のある者達に第九交響曲を演奏させるなど、人間として扱い、そのようなことから当然ながら日本人にとってもよい影響を与えたようである。
 そういう話とは別に、私が感激し、日本人の朴訥さと善良さが出ていると思った描写は、満州から引き上げてきた高橋敏治・春枝夫妻が亡くなったドイツ人俘虜の墓を見つけ、無償で守り、線香を供え続けたことである。昭和三十五年に駐日西ドイツ大使その墓を参った時に、大使は高橋春枝さんの手を自らとって、日本語で、「アリガト、アリガト」と感謝の意を表したという。
 その後の松江豊寿の生涯と枯淡な生き方には共感するものがあり、気分のよい話を読んだことに満足した。
古き良き日本人の姿 ★★★★★
 毎年、年が明けたころ、同期入社の友人らと旅行に出る。
 随分と長い間、大分県の別府市だったが飽きてきたこともあって、ことしは徳島県の鳴門市だった。鯛料理に舌鼓を打ち、鳴門ワカメの美味しい味噌汁に満足しながら、ただの観光で「鳴門市ドイツ館」を訪れた。

 第一次大戦中、日本軍が攻略した中国・青島のドイツ兵たちの捕虜収容所が、鳴門にあった。管理に当たった松江豊寿所長(大佐)らが捕虜の人権を尊重し、収容された捕虜たちが商店を経営するなど許される限り自由に過ごしたことが館内で詳しく紹介されており、軽い観光気分が吹っ飛んだ。館内で紹介されていたのが本著であった。

 「捕虜収容所」と言うと、とかく暗く重い雰囲気がのしかかる。鳴門にあった収容所の運営方針が全国並みだったとも言えないだろう。しかし、大正時代にあって、負けた人、弱い立場の人を思いやることができた日本人がいたことを、本著で垣間見ることができる。