しかし、論理的にはすきだらけと言わざるをえない。
デネットは人間とそれ以外の動物についての
ある種の問題に対する解決能力の差を上げているが
少なくともいくつかの点では最近の霊長類の生態学に
ついての研究成果を無視しているようにも思える。
また仮にそれが問題でなかったとしても
こうした問題解決能力の違いが「心」のありなしを
語る基準となりえるのだろうか。
またこれとは別に哲学的にも問題がある。
つまり、デネットは議論の中で
人間に「心」があることを
自明のものとしてとらえている。
しかし、人間を認識者としてとらえるならば
認識される対象をはじめ
自己言及的に認識される自己の存在も証明することはできない。
他者的に理解される「自己」の概念は
言語哲学の問題であると同時に
現代の認知科学の成果でもあるのだが
デネットはこうした見方を完全に無視しているように思える。
デネットは認知科学と哲学の間の橋渡しについての
啓蒙的な仕事をした人である。
彼自身が理論的な行き詰まりを感じていることを
この本が良く表しているのではないだろうか。