近縁にある「遺伝」という分野と比較してみましょう。DNAの二十螺旋構造を解明したワトソンが書いた「DNA」を読んで感じたことです。この分野では、DNAの基本構造の発見が突破口になり、研究の方向性が定まり、地道な探索から攻めの実験に転じられたと思います。
しかし、脳に関する研究の分野は、そのとっかかりがまだ見つかっていないようです。私たちはまだ「意識」や「心」といった高次の概念の扱い方もわかっていません。何を研究するのかの対象さえ定かではないのではないでしょうか。
元々は、テレビ番組を意識してつくられたストーリーだという冒頭で紹介されています。なるほど、個々の事例が映像で紹介される様を想像すると、興味深いエンターテイメントになるだろうと思えます。しかし文と多少の図だけでは、その立体感をだせていないように思います。
内容は、入門書のレベルよりやや上で(難しい用語はあまりない)、範囲はニューロン、パーキンソン病、記憶、麻薬、など、脳に関する一般の話題がほとんどです。
ただ、情報が散らばっていて少し読みにくいかもしれません。また、教科書のように、この定義はこうで、というものでもなく、脳の雑学を知るものでもありません。そういう意味で、この本の位置づけは難しい。
だが、こういう本を読むことを読書というのだと思います。トリビアではなく、幅の利く考え方を得られる本。全部を通して考えながら読んでいけば、それがわかるはず。