端正な名演
★★★★★
ブラームスのヴァイオリン協奏曲は、ヴァイオリン協奏曲界の雄だ。
オーケストレーションの素晴らしさはもとより、魅力あふれる旋律の数々、見せ場にも事欠かないヴァイオリンパート。
全体を通してバランスの良いこの曲を、アーノンクールは、端正で、少々控え目にオーケストラを制御する。
第1楽章のヴァイオリンが登場する部分で、オーケストラが軽くヴァイオリンを押すが、アーノンクールは本当に軽く押す。
それから展開されるヴァイオリンのアルペジオの数々は、鬼気迫る印象すらあり、クレーメル迫真の演奏だ。
後の楽章も、高い緊迫感を持って、曲が進んでゆく。
それから、二重協奏曲に入ると、ハーゲン・クヮルテットでお馴染みの、クレメンス=ハーゲンの登場だ。
やはりアーノンクールは、この二人のソリストとオーケストラをうまくまとめてゆく。
ロイヤル・コンセルトヘボウの響きの美しさも比類無い。
アーノンクールは最近契約レコード会社を移籍し、メサイアの全曲録音を行ったりしているが、学者肌的な端正さが光る。
そんなアーノンクールは、ブラームスにおいてもテンポを正確に保ち、余分な遊びは無く、楽譜に忠実だ。
クレーメルもハーゲンも、こういう信頼故に、のびのびと弾く事が出来るのだと思う。
端正な名演。
それなのにこの価格。
ずいぶん得をした気分だ。
今度のカデンツァはジョルジュ・エネスコ
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ヴァイオリン協奏曲作品77が1996年3月20-24日、ヴァイオリンとチェロのための協奏曲作品102が1997年4月3-5日、いずれもアムステルダム、コンセルトヘボウでライヴ録音。
クレーメルのブラームス・ヴァイオリン協奏曲はここまで3度目だと思う。前回がバーンスタインと組んだ1982年9月ウィーン、コンツェルト・ハウス大ホールでライヴ録音。同時にユニテル社が映像を収録、DVD化されている。1983年のブラームス生誕150年祭の一環として企画されたチクルスである。その前がカラヤン+ベルリン・フィルと1976年3月に西側デビュー作として録音している。面白いのはカデンツァだ。1回目こそカラヤンに有無も言わさず押し切られて、クライスラーだったが、2度目はマックス・レーガーの前奏曲とフーガニ短調作品117第6の前奏曲全曲でやり遂げた。そして今回は何とジョルジュ・エネスコである。ほんとにこだわっている。
何しろニコラウス・アーノンクールはクレーメルと最も意思疎通が測れ気心が知れた指揮者だと思うが、まさにのびのびと自由に弾ききっている。素晴らしい演奏だ。