線が太くて、たたみ込む様なシベリウス
★★★★★
クレーメルのヴァイオリンの音色は、何と美しいのだろう。
線が太い中に、はっとする様な繊細な表情を見せる。
美しいフレーズの宝庫とでも言えるこのシベリウスを、クレーメルはテンポを少しゆらして、たたみ込む様に弾く。
この弾き方は、ゆったりと歌うこの曲には、やや意外な印象を持ったが、こういうシベリウスも良い。
オーケストラにはメリハリがあり、盛り上げる部分は、がつーんとくるので、爽快感がある。
第3楽章の例のフレーズは、迫力のあるオーケストラに乗って、リズミカルに弾かれる。
そこでも、ヴァイオリンの線の太い音が、輝きを放っている。
総じて、歌うシベリウスではない。
情熱的な演奏だ。
カップリングのシュニトケの合奏協奏曲は、寂寥感の強い曲だが、それをやや堅く奏する。
陰鬱なこの曲が、クレーメルの突き上げる様な演奏で、もやもやとしたものが明瞭になる。
難解な曲ではあるが、この演奏なら、親しみやすい。
これ以上のシベリウス、もう出ないような気がする
★★★★★
1977年8月12・13日、ザルツブルク大学大ホールにて録音。競演しているタチアナ・グリンデンコはクレーメルの最初の妻だった人だ。
どちらも素晴らしい演奏なのだが、僕は圧倒的にシベリウスの演奏が好きだ。ヴァイオリン協奏曲ニ短調作品47は1903年の作曲、1905年の改訂。特に第一楽章のクールな美しさには北欧の自然を思い浮かべずにはいられない。クレーメルはこの素晴らしい旋律を見事に奏でている。
クレーメルとしてもかなり初期の録音に当たるが既に完全体である。これ以上のシベリウス、もう出ないような気がする。
ちょっと暗い雰囲気ですけど・・
★★★★★
ラトヴィアのヴァイオリニスト、ロシアの指揮者、イギリスのオーケストラでシベリウスとシュニトケ、しかも録音はザルツブルクというなかなかインターナショナルな録音です。たしかLP初出時からこの組み合わせだったと思う。
演奏は、どことなく淡い暗さを持ちながら、野太い低音が特徴的で、落ち着いた味わいになっている。
シベリウスでは、この曲の耽美性がよく出ている。低音から高音へ力強く駆け上がるヴァイオリンの音色は、聴き手のハートに伝わるものがあるし、ロジェストヴェンスキーの指揮は、いつもよりやや抑え気味(それでも金管の咆哮はやはり「らしさ」がある)の音色は、クレーメルのヴァイオリンのやや重い響きとのバランスを考えていると思う。2楽章の暗さは特に印象的だ。
シュニトケでは、グリンデンコも加わって、シュニトケ・スペシャリストがそろった感があり、説得力のあるものになっている。本合奏協奏曲は、6つの部分からなる組曲風のもので、なんとも暗い色合いが支配する。冒頭からプリペアード・ピアノがなんとも不気味な音色で曲をリードしていく。暗鬱とした響きは、それこそロシアかどこかの、灰色の冬の空の下、結氷した湖を伝わってくるようだ。後半になって突如タンゴのリズムで、このうえなくもの悲しいメロディが奏でられるが、そのタンゴの変容ぶりは、不気味でまるで幽霊でも出てきそうです。クレーメルの音色は、そのあざといともいえるタンゴを、あえて大真面目に演奏した感があり、シュニトケのらしさが如実に伝わる録音になっている。
クレーメルの本領発揮。
★★★★☆
まずシベリウスは諏訪内のような線の細い演奏が好きな私はクレーメルのように骨太な演奏は好みではありません。
問題はシュニトケです。これは確か再録音していたと思うのですが(記憶違いかも。)若き日のクレーメルが元奥さんと競演しているのは聞いてみる価値ありです。(限定盤だったこのCDも再プレスされたらしいですし。)