「ゲイシャ」…アーサー・ゴールデンの処女作によると、この言葉が意味するのは日本を知らない西洋人がうかつにもイメージする「売春婦」ではなく、「職人」または「芸術家」であるという。ゴールデンは、芸者の一生をフィクションの形で再現するために厳しくも長い努力を重ねた。その長さ厳しさは、唄に楽器に踊り、洒脱(しゃだつ)な会話、美しいライバル芸者たちとの奸知(悪知恵)に長けたやりとり、富裕なパトロンたちへの巧みな誘惑といった技術を会得するために芸者が重ねる試練に、肩を並べこそすれひけはとらないものだった。著者はハーバード大学とコロンビア大学に学び、日本美術と日本史を専攻、英語学で修士号を取得、その後東京で、著名な実業家が芸者に生ませた私生児という男性と出会う。この出会いがきっかけで、ゴールデンは、主に財力に富む著名人を魅了し続けてきた芸者ミネコ・イワサキを取材し、芸者文化の微に入り細にわたる実情調査に10年間もの歳月を費やすことになったわけだ。
集大成であるこの小説は、チャールズ・ディケンズの、社会を俯瞰(ふかん)する広大なキャンパス(そして偶然が呼んだ愛…)のダイナミズムと、ジェーン・オースティンの、男女の秘めごとに絡む巧妙な策略の気配を仔細(しさい)にうつす筆致の両方を併せもつ数少ない作品となった。読者は芸者の一生を丸ごと体験することになる。…1920年、漁村での孤児として育った少女時代から、10代の前例のない高額な水揚げという栄光、そして押しも押されぬ権力者であったパトロンに先立たれた後の、老境における追憶へ…と。読み進めば芸者というものが、西洋でいう売春婦というよりも「トロフィー・ワイフ」に近いことがわかってくる。また、オースティンが描いたように、完全に娼婦に身を堕とし、そして早くに命を絶つことが、抑圧された不可解な求愛システムに対応するための女たちの選択だったことも見えてくる。その飾らない優雅な散文体で、ゴールデンは我々を芸者のいる茶屋へといざなう。たった一言の警句や、着物からあらわになった(あるいは微かにのぞく)肌や、クモのように残忍な芸者からたてられたうわさによって、芸者としての将来が輝きもし、崖っぷちから落とされもするような社会構造のなかで、彼女がたおやかにしたたかに自らの人生のために戦うさまの一部始終を、同じ部屋に腰掛けて見聞きすることになる。
ゴールデンのプロットは美しく紡がれているものの、欠点も隠せない。真実であるはずのロマンスの舞台は立体感に乏しく、ヒロインがその一生を賭けたはずの愛も象徴的で、本質がえぐられているとは言いがたいのである。また、彼女の敵役の芸者はよく描かれているものの、彼女の動機のない悪意の理由(すなわち、芸者なら誰もがおかれている苦境)もさらに深く描かれていれば、もっとしっとりと浮き彫りできたことだろう。しかしながらゴールデンは、フィクションの3冠を獲得することに成功している。鮮やかな過去の舞台において、リアルな生身の女性主人公を創出し、真実の東洋的メタファーのなかで自らの思いを表現することにより、日本文化のある一面を見事に捉えるという偉業をまんまとやってのけている。
アメリカ人が書いたにしては良かったと思う。
★★★☆☆
I must say many factual parts were thoroughly researched, and the author succeeded in portraying a life of geisha who survived in the early 20th century though I doubt its value as historical reference. Overall, the story is entertaining and enjoyable even to Japanese. I was very impressed by how well the author described beautiful kimonos and how Japanese people behave.
However, as a native of Japan, I found some awkward descriptions here and there. I found it hard to believe that so much use of poetic metaphors from someone like Sayuri, a geisha. My guess is that the author elaborated most metaphor parts based on the facts in order to make the story more romantic. Some elaboration was O.K., but the author did too much of it and made the story less realistic. The author attempted to convince readers that all geisha are not prostitutes by explaining that there are classes of geisha ranging from lower class prostitutes to higher class successful geisha who had privilege of luxury and more freedom supported by their “Danna”. It was nice of the author that he makes efforts to correct many foreigners’ “misconceptions” about geisha to protect their dignity, but his novel failed to do it. Why “mizuage” was involved in exchange of money and the geisha’s feelings are the least of concerns? Owned by “Danna”, whom the geisya does not necessarily love, provided main source of income from him that allows luxurious life in exchange of her sexuality is no different from a definition of prostitute. Since it is a fictional story, I should not expect too much accuracy and understanding of Japanese from an American after all.
読み物としてはかなり楽しめました。比喩表現が仰々しいのでしらけてしまうのですが、着物をどのように英語で表現するか、という点ではとても上手に書かれていましたし、女の園の密やかな戦いはリアリティがありました。
歴史的な史実や芸者の風俗習慣もよく調べたようで、芸者の栄枯盛衰のさまは良く描かれていました。映画ほどの逸脱はなかった、という印象でしたが、抒情詩的な表現は著者のファンタジーによる誇張や歪曲がかなりある感は否めません。
日本人にとっても、面白い歴史小説として読めると思います。抒情詩的な英語表現には戸惑うかもしれませんが、全体的には平易な英語で書かれています。日本人の話ですし、話の展開が上手なので、初めての洋書としても読みやすいかもしれません。
あしながおじさん芸者版
★★★★★
とてもアメリカ人男性が書いたものとは思えないです。
非常によく調査されている上,素晴らしい筆致。
サユリの故郷であるヨロイドの貧しく灰色がかった風景や
祇園のきらびやかな情景が
違和感なく頭の中に浮かび上がります。
サユリの人生についてもとても細かく描かれており,
最後まで飽きることがありませんでした。
というわけで,★5つです。
ただ,物足りなさもありました。
サユリを含めて,人の気持ちの描写がややきめ細かさに欠けるし,
サユリの性格が日本人女性にしては,ちょっとドラスティックな感じがしました。
ノブから愛情を注がれながらも徹底的に避けようとするのは,
要するに,その醜い容貌に生理的嫌悪を覚えているのでしょうか?
ノブを避けるため,時に手段を選ばない態度には,少し引いてしまいます。
どうしても会長が好き,というのも,はるか昔のハンカチのエピソードにばかり寄りかかっていて,その後の会長の印象が薄く,
なぜそんなにサユリが愛情を持続しているのか伝わりにくいです。
読み終わってみれば,足長おじさん?とも思うのですが,
この点についても,えええ?そうだったの? という唐突さを感じました。
でも,この作品は,
そのような欠点(というほどでもありませんが)を凌駕するほど
外面描写が精緻であり,波瀾万丈な女性の一代記がお好きな方は絶対楽しめると思います。
芸者の純愛
★★★★☆
なぜか分からず突然親と引き離され、田舎の漁村から京都に姉サツと連れてこられたチヨ。
ハツモモに意地悪され、芸者にさえなれそうもなくなった時
マメハに救われ芸者の修行が始まる。どうすれば男を魅了するか
学びながら成長を続ける(チヨ改め)サユリ。その不思議な魅惑的な目が女性を絶対に
好きにならないノブを魅了する。戦争で片腕を失い
顔もケロイド状になった醜いノブだが、岩村電気を倒産の危機から
救った男である。会長はそのためサユリへの愛をひた隠す。
一方サユリは少女の時に橋のたもとで親切にしてもらった事が
忘れられずに、会長に愛されるために辛苦に耐えついに一流の
芸者となる。ノブからの愛を避けるために、想ってもいない旦那(パトロン)に
ついたが、終戦となり旦那と別れノブに救われる。再びノブが旦那になろうと
するが、一計を労し潔癖なノブの愛情は冷める。ついに会長から愛が。。。
感動の結末は映画の方がリアルであった。だがよくここまで日本人でない
作者が克明に芸者の生涯を描いたと感銘する。
衣擦れの音が
★★★★★
もう五年以上くらい前に読みました。まわりの知人から薦められてたり、私が日本人だということでこの本のことを話される方が多かったためです。著者はアメリカ人の学者さんだったように記憶しておりますが、京都の母の実家で叔母たちがお正月に着物を選び、姉妹で帯の結び合いをしていたあの衣擦れの音があたりで響いてきそうな、本当にうつくしく、こまやかな筆に、これが英語で書かれたこと事態にも驚きを隠せませんでした。今回映画になるとききましたので、日本語訳でも楽しみたいと思っています。とくに、ハツモモのいじめはいかにも日本(京都)らしく、笑ってしまいました。ここまでの知識と研究と文学の深遠を極めた作者に脱帽です。なお、英語としては平坦で簡潔ながらいくら読みすすめても疲れることのない滑らかさがありますので、洋書をこれから読み始めようとされている方には、日本を題材とした文化的側面から見てもハードルが低く、お勧めかとおもいます。
さゆりはアンチヒロイン?
★★★★★
映画Sayuriの上映に先駆けて、読みました。映画はまだ見ていないのですが、本はとても楽しく読むことが出来ました。映画の宣伝文句が「日本が嫉妬するジャパン」なので、芸者の世界をグラマラスに美化している話なのかと思って読んでいましたが、最後まで読んでみると、そうではなく、芸者の暗い面がとてもよく出ていたと思います。
たしかに、さゆりは、芸者としては成功し勝ち組?だけど、その芸者と言う存在自体、男社会の産んだ都合のいい制度に思えました。あと、企業と国家の重要な取引が、御茶屋で役人のご機嫌をいかにとるかにかかっているなんて、日本はやばいですね〜!
あと、mizuageや dannaの制度からしても、芸者ってprosutitudeですね〜。
舞妓さんのかわいい格好にかつてはあこがれたけど、自分の給料があって人に頼らずに自立できる女性の方が、はるかに生き心地(?)がよさそう。それと、Mr Satoが飲みゲームで負けて具合が悪くなるシーンを読んで、私には芸者は務まらないと思いました(笑)。