オスマン帝国はどのように恐怖の帝国だったのか?ていうかそれって本当?
★★★★☆
この書は前半後半に明確に分かれており、前半が現在のトルコを中心に巨大な
帝国を誇ったオスマン帝国史を扱い、後半は、現在のイランを中心にやはり大
きな勢力を持ったペルシアのサファヴィー朝を扱っています。
その他のイスラム勢力(インドのムガル朝や北アフリカ他)に関しては、殆ど
扱われていないので、オスマン、ペルシャ以外のイスラム史に関心がある方は
ご注意ください。
叙述方式としては、前後半とも政治、軍事、文化、人物などがバランス良く配
されており、このシリーズの欧州史のように「政治史が全然無いじゃん」とい
った不満を抱く事は無いと思われます。
また、イスラムの中でもスンニ派を中心としたオスマンと、シーア派を中心と
したペルシャと両方を扱っているので、イスラムの宗教史に関心がある方にも
お奨めできます。
僕が面白かったのはやはり欧州との関係で、欧州史を学ぶと「オスマンの恐怖
とその超克」といった流れで欧州史を理解する傾向にあるのですが、オスマン
側から見ると、その流れはどのように見えるのか?そもそもオスマン最強の精
兵であったイェニチェリは欧州人奴隷だったわけで、オスマンは欧州人をどの
ように扱っていたのか?といった部分が、かなり語られております。
人物伝に関してはペルシャ史が面白いです。ペルシャで左遷されインドで重用
された文官や、フランスからペルシャに伝導に来て、通訳としてペルシャ人、
欧州人ともに頼りにされながら清貧を貫いたカトリック修道士など、個性豊か
な人物伝が楽しく読めます。
中東史、イスラム史にご興味がある方、欧州と中東の関係史に興味がある方に
お奨めのバランス良く、カラー写真が活かされた歴史書です。