アン・バートンは1989年に56歳で亡くなったオランダの女性歌手。本名アン・ラファロウィッチ。俳優のリチャード・バートンのファンだったので、そこからバートンと名乗るようになった。この人はアップ・テンポよりもスロー・バラードを好み、じっくりと語りかけるように、そして小声でささやくように、つぶやくように歌うのが特徴。73年以降、何度も来日して日本でも人気者だったが、大ホールより、こじんまりとしたクラブで歌うほうが断然サマになった。どこかはかなさを感じさせる彼女の歌声は、日本的なワビ・サビの情感とも相通じるものがあって、それで日本で熱烈に支持されたのではないか、などと思ったりする。
彼女のデビュー作は67年録音の『ブルー・バートン』。本作はそれに続く69年録音のセカンド作で、スタンダードやポップ曲をゆったりとしたテンポで歌っている。バックはルイス・ヴァン・ダイク・トリオに一部サックスが加わる編成。シェール66年のヒット曲<3>も彼女が歌うとジャジーな仕上がりになって、ものすごく味わい深い。(市川正二)
時代を経ても
★★★★★
このジャケットのセンスは悪いですが、歌と演奏は素晴らしいです。
夜、ウィスキーに舌鼓を打ちながらこの歌に酔いしれます。 この落ち着く歌に笑みがこぼれ、終わったときにはため息がもれます。
特に「the shadow of your smile (いそしぎ)」と「here's that rainy day(冷たい雨)」が優れています。
繰り返し聞きたいアルバムです。 いつの時代にも堪えるアルバムだと思います。 このアルバムは彼女の最高傑作ではないでしょうか。
穏やかにすごしたいとき
★★★★★
穏やかにすごしたいとき、聴いています。歌モノのしっとりしたジャズバラードで、これほど気持ちいい音を出す人は中々いないと思っています。
人生の語り部
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高校生時代に通っていたジャズ喫茶で初めて聴きました。聴きやすい英語で所々意味も解り歌が上手いとか技法が唱法がどうのこうのとかの以前に直接心に飛び込んで来るので胸が詰まり涙目に成っていた筈です。ジャケット写真が異様でアンネフランク嬢と同世代、同国者、同人種とのことで彼女もやはり相当に辛い人生を歩まれたのではと思われる風貌が印象的でした。アンバートンが渾身の力を込めてでもしっとりと人生を愛を歌い上げているので貴女、貴男もその様に聴いて下さい。
オトナな雰囲気が◎
★★★★★
声のレンジが広いわけでも、スキャットがあるわけでもないけど、彼女の歌声には人の心をグッとつかむものを持っているような気がします。技巧的に偏らないところが彼女のいいところなんでしょうね。彼女は好きな歌手として、Lee Wiley、Billie Holiday、Anita O'dayを挙げていますが、なんとなくわかる気がします。
ヴァン・ダイクらのシンプルな伴奏も、彼女のオトナな雰囲気を盛り立てていますね。選曲も当時の新しい歌も混ぜていて、飽きさせません。
バラードの名盤
★★★★★
声の質、歌い方など、アン・バートンほどバラードの似合う歌手は、そうそう存在しない。有名な割りには寡作だったバートンのベストは、この盤と同じソニーから発売されている「ブルー・バートン」だ。情感いっぱいの「いそしぎ」だけを聴くだけでもこの一枚を持つ意味がある。アン・バートンと同じオランダの生んだ名手ルイス・ヴァン・ダイクのブルージーなピアノもいい。このオランダ人たちのジャズを聴くと、ジャズはアメリカ人のものだけではない、と、つくづく感じる。ヴァン・ダイクはM&Iカンパニーから、「バラ−ド・イン・ブルー」という新譜をリリースしたが、そちらも名盤。(松本敏之)