日本人に馴染みやすいジャズヴォーカルの名盤
★★★★★
その昔、学生時代にFMで聴いたのが偶然の出会いでした。
1曲目「 I Thought About You 」、2曲目「もしも私が鐘ならば」。あまりの素晴らしさに戦慄が走ったほどです。カセットテープに録音したそれが聴くに耐えられないくらい音質に落ちた頃に、たまたま吉祥寺の中古レコード店で当アルバムを入手したときの喜びは忘れられません。
ヘレン・メリルが歌った名曲中の名曲、「 You`d Be So Nice To Come Home To 」が収録されている。これはもう聞き逃すのはあまりに惜しい。余談ながら、当時のレコードでコンディションの良いものはレアで非常に高値で売買されているとか。
ジャズ評論家の本を読むと、まず間違いなく「バラード&バートン」を代表作として紹介されています。しかし、しっとりとしたバラード曲とピアノトリオとともにスウィング感を利かせた曲とのトータルバランスで言えば、当アルバムのほうが勝っています。
さらに、ビギナーが女性ジャズヴォーカルを聴いてみようとCDを買うと、サラ・ヴォーン、ビリー・ホリディ、先程のヘレン・メリルという、往年の巨匠たちから入るといったケースが往々にしてあります。
彼女たちのアルバムはジャズ史上に残る名盤ですから、評論家が推薦するのはいわば当然です。
しかし、いかんせん古い。それに各自個性がありすぎて拒否反応を示すのではと危ぶまれてしまいます。
アン・バートンはそれらと較べて素直にストレートに耳に心地よく入ってくる。まさに日本人の感性にあったヴォーカルです。
事実、70年代には来日公演が何回もありました。
当アルバムをまず聴いて、バラード曲により惹かれるものがあれば「バラード&バートン」、「ブルー・バートン」と進むのがいいですし、そっくり全体を気に入れば「スカイラーク」、「ニューヨークの想い」に進むのがいいでしょう。期待を決して裏切ってくれない一枚として推薦いたします。