それらの事実を知るのは楽しいことですが、それ以上に筆者の関心を引いたのは、著者が「菊」と「刀」によってそれぞれ象徴されるものについての俗説を否定していることです.一般には「菊」は優美の、そして「刀」は残忍の象徴とされていますが、それを否定した人は、20世紀中には4人しか居ませんでした.著者福井女史は、その中でも最も充実した議論で「菊」=擬装された意思の自由、「刀」=自己責任の態度、という関係を導いています.ベネディクトに関する一次資料を多数、念入りに調査したからできたことでしょう.その努力に敬意を表したいと思います.