著者は『菊と刀』が文化人類学の研究としては異例だと言っていますが、それは現地調査が行なわれなかったことと、戦争の終結と戦後の日本占領に役立てる目的を持っていたということにとどまっています.アメリカに宣戦布告して3年8ヶ月も戦うことのできた、教育の行き届いた、八千万もの国民を擁する国の統一的な文化の型を発見したという点は、「異例」のうちには数えられていません.
しかし、これを著者一人の責任であるかのように言うのは酷でしょう.過去数十年間、誰一人として『菊と刀』のことをそのようには見なかったのですから、学界の一般的な状況を反映するものとしてはこの本の内容は妥当です.しかしながら今後の指針を求める若い人たちに奨めることは躊躇されます.